羽田から日本が誇る「極上ブランド」発信
2020年2月号
BUSINESS [キーマンに聞く!]
1955年東京生まれ。慶應大商学部卒。伊勢丹入社。2009年伊勢丹社長。12年三越伊勢丹ホールディングス社長(17年退任)。18年より日本空港ビルデング副社長。傘下の羽田未来総合研究所社長を兼任。
――2017年に三越伊勢丹HDの社長を退き、日本空港ビルデングに転じました。
大西 創業67年を迎える日本空港ビルデングは純民間資本による旅客ターミナル運営会社として「日本の空の玄関」羽田空港と共に成長してきました。年間利用旅客数約8500万人は、世界空港ランキング第5位。世界最高評価の「5‐star Airport」を6年連続で受賞し、空港の快適さ清潔さでは4年連続世界第1位になっています。
五輪イヤーの今年は、年間旅客数が相当増えるでしょう。今後、これまでに経験したことのない大きな変化を迎えるのは明らかです。そこで羽田のポテンシャルを活かした新たな価値を目指して「羽田未来総合研究所」が設立され、その社長を任されました。
――新会社のコンセプトは?
大西 東京と各地域を、そして日本と世界を結ぶハブとして、地域と連動しながらジャパンブランドを発信していく役割を担いたい。そのために、地方創生と文化とアートの発信に取り組み、日本が誇るものの提案を、誰よりもどこよりも、正しく伝えていきたいと思います。
――新ルート導入で羽田国際線の年間旅客数は1800万人から2500万人に増えますね。
大西 政府は20年に訪日旅客(インバウンド)4千万人、消費額8兆円(一人当たり20万円)の目標を掲げていますが、ハードルは高い。18年に訪日旅客が初めて3千万人を超えたが、消費額は4.5兆円(一人当たり15万円強と3年連続減少)にとどまりました。現在も訪日旅客の約7割は中韓台湾香港とはいえ、「爆買い」による消費拡大は、もはや期待できません。
――観光先進国を目指すには一人当たりの消費が低すぎます。
大西 昨年のラグビーW杯の訪日観戦客(英米豪仏など)は宿泊数が長く一人当たりの消費額は38万円強でした。日本の歴史・文化に興味と関心を抱く欧米からのインバウンドが増える傾向にあり、訪日消費拡大のカギを握ると見ています。
――彼らに何を売りますか。
大西 我々は積極的に地方へ出向き、全国各地で出会った「研ぎ澄まされた感性」から紡ぎ出された逸品をジャパン・マスタリー・コレクション(JMC)としてブランディングしたいと思います。Masteryとは、欧米人が尊ぶ「熟達を極めたひとの魂」を意味します。日本が誇る極上品をお土産として持ち帰っていただきたいと、昨年から出国エリアに特設コーナーを設け、マーケティングと人財育成に力を入れてきました。
――何が喜ばれましたか。
大西 夏場の「岐阜フェア」では、欧米圏の訪日客の消費額が中国の訪日客を上回り、日本文化への関心が高く「ラグジュアリー」に対し造詣が深い欧米人が消費拡大のキーであることを裏付けました。極上の郡上本染め(12万円)や和傘(4万円)が女性客の心をつかみました。
今後、JMCブランドに相応しい感動を与える店舗を展開する予定です。極上ブランドに魅了された訪日外国人が「生産地へ行ってみたい」と切望することもあるでしょう。そんな日本ならではの魅力を発掘・発信したいと思います。
(聞き手/本誌発行人 宮嶋巌)