コクヨVSプラス「仁義なき戦い」 97歳元社長を担ぎ出す「異常事態」

(12月5日22:30)

2019年12月号 EXPRESS [号外速報]

  • はてなブックマークに追加

株主蔑ろ」の誹りを免れないプラスの株式譲渡契約書

筆記具大手「ぺんてる」のM&A合戦が泥仕合を呈している。11月15日に文具大手「コクヨ」がぺんてる買収を発表するや、ぺんてる経営陣は、同じ文具メーカーのプラスを「ホワイトナイト(白馬の騎士、友好的な第三者)」に指名。両陣営がぺんてる元社長らを担ぎ出し、株主の説得に当たる「仁義なき戦い」を繰り広げている。

「株主蔑ろ」プラスの譲渡契約書

「(ぺんてる経営陣が推す)プラスから『株を買いたい』との申し出があり、株式売買契約書を出したが、直後にコクヨから買い取り価格の引き上げ表明があったので乗り換えようとしたら、キャンセルできない契約になっていた。こんなのありか!」と、ぺんてる株主の一人は吐き捨てる。

コクヨは11月15日にぺんてる株主に1株3500円で買うと発表。直後にプラスが同額での買収を提示したため、コクヨは買い取り価格を11月20日に3750円に引き上げ、さらに11月29日に4200円まで引き上げた。

ぺんてるの株主は同社OBを中心に約340人。発行済株式は900万株で、1人当たりの保有株式数は平均すると約1万株。仮に1万株を3500円で売却すれば3500万円、4200円で売れば4200万円だから、プラスに売った株主が大損するのは目に見えている。

上場企業による株式公開買い付けであれば売却に応募した後でもキャンセルが可能だ。他の投資家やスポンサーが、より高い価格を提示することがあるため、キャンセルできる仕組みでないと、株主が損をするからだ。ところが、今回の買い付け対象であるぺんてるは非上場ゆえ、かかる規制の対象外となり、キャンセル不可の契約書も違法ではないという。とはいえ、プラスへの譲渡契約の縛りは「株主蔑ろ」の誹りを免れないだろう。

 プラスは12月1日に出した株主への手紙の中で「(すでにプラスと契約した人がコクヨとも売買契約を結ぶと)『二重売買』の状態を招くことになり、契約の縛りは皆様に、個人として大きなリスクを招くことになると考えられる」と、株主の乗り換えに警告を発しており、ぺんてる株主を憤慨させている。

両陣営が「まだらボケ」を担ぎ出す

さらにM&A合戦の最中、両陣営の意を汲んだと思しき有力OBから「ラブコール」の手紙が、ぺんてるOBの元へ何度も届く、異常事態になっている。ぺんてる元社長の水谷壽夫氏から最初のラブコールが届いたのは11日20日。「コクヨは(中略)ぺんてるを完全に支配するために、手段を選ばない強引な動きを始めたと言わざるを得ません」と、コクヨを糾弾していた。続く11月24日には、今度はぺんてる元専務の池野昌一氏から手紙が届き「コクヨは(中略)過去の国内外のM&Aの実績を見てもパートナーの強みを引き出し、すべて良好な関係を築かれています」「プラスの昨今のM&Aは、その結果を見ても乗っ取りに近いようなブランド軽視の事例もあります」と、コクヨへの株式売却を呼びかけた。

11月29日には、再び水谷壽夫氏の署名がある手紙が届く。「私自身が発信した意見を変えざるを得ない」「私は現経営陣の(プラスへの売却提案)に賛同しない」と、なぜか立場を逆転させ、コクヨの肩を持っていた。

ところが、事はこれで終わらない。ぺんてるが12月1日に出した手紙には、3度目となる水谷壽夫氏の自筆と思しき文書が同梱されていた。曰く「内容に些か誤解があり皆様に誤ったメッセージをお送りした形になって了いました」「私がぺんてるの経営陣の決定に賛同することに全くの変更もございません」と、プラス→コクヨ→プラスと、再び立場を逆転させたのだ。当の水谷氏は既に97歳。「両陣営がまだらボケを担ぎ出し、玩具にしている」と、ぺんてるOBは酷評する。

株式買い取りの申し込み期限はコクヨが12月9日、プラスが12月10日に迫っている。既にコクヨはぺんてる株の38%を保有済み。今回の買い付けにより50%以上を取得し、ぺんてるを子会社化する目論見だ。一方、プラスは33.4%を上限とする株式の取得を目指している。

仮にコクヨが50%以上の株式取得に失敗し、プラスが33.4%を確保した場合、33.4%以上を持つ株主が2社存在することになる。どちらも拒否権を持つため、経営上の重要案件が決まらなくなり、ぺんてるは「宙ぶらりん」の状態になる。どちらに軍配が上がっても、仁義なき戦いの傷跡は深く、ぺんてるの前途は険しいと言わざるを得ない。

   

  • はてなブックマークに追加