「まだやり残したことがある」(森本宏特捜部長)。東京地検は政界ルートに踏み込むか?ハッタリではないだろう。
2019年12月号 DEEP
細野氏への資金提供を斡旋したといわれる大樹総研の機関誌
「リニア新幹線談合」「文部科学省裏口入学汚職」「日産ゴーン会長特別背任事件」と矢継ぎ早に大型事件を捜査指揮してきた森本宏部長率いる東京地検特捜部が、政界ルートに踏み込むかが注目を集めている。森本特捜部にとって未踏の領域だ。
司法担当記者が言う。「森本さんは今年7月の人事異動で、旭川地検検事正への異動が取りざたされました。しかし残留が決まり、ホッとした表情でしたね。上司には『まだやり残したことがある』と言ったそうです」
ハッタリではないだろう。7月の参院選公示日の前日、特捜部は内閣府所管の「企業主導型保育事業」をめぐる詐欺事件に着手し、首謀者であるWINカンパニー(福岡市)の代表、川崎大資被告らを逮捕。同被告は10月スタートの幼保無償化に向けて用意された国の助成金をもらいたいパチンコ業者や不動産業者を政治家と引き合わせ、「この人が付いているから大丈夫」と仲介した。そのせいで審査機関である児童育成協会とのトラブルが相次いだという。
「その政治家とは自民党の秋元司衆院議員です。9月の内閣改造前まで内閣府副大臣を務めており、政界ルートの本命と言われてきました。直告班は9月以降、保育事業者たちを何度も取り調べ、秋元氏との関係や、職務権限のある内閣府の担当参事官への働きかけなどを追及していました」(検察ウオッチャー)
秋元氏といえばスキャンダルのデパートといわれてきた。先の通常国会では、外国人留学生1400人の行方不明を出した東京福祉大学の理事を務め、300万円の報酬を受けたと追及された。東レ巨額不正取引事件では、東レ社長に圧力をかけたと『週刊文春』が報じている。
特捜部が秋元氏に重大な関心を寄せる理由がある。政治資金規正法上、企業・団体献金が受けられない『資金管理団体』をあえて持たず、抜け道がある政党支部をもっぱら受け皿にしているためだ。
秋元氏の献金者は実に幅広く、「平和」をはじめとするパチンコ業界などから献金を受け、パーティ券を売りさばいている。献金者にはクラブを経営する夜間営業業者も多数登場。自ずと特捜部の捜査は広範囲に及ぶ。前出の検察ウオッチャーが指摘する。「捜査の過程で、秋元氏には財務・金融ルートと呼ぶべき利権があることも判明しました。特捜部はこうした不透明な献金を総ざらいし、収賄容疑や政治資金規正法違反の立件の可否を検討しているようです」
森本特捜部にはまだ、懸案の政界ルートがある。2017年10月の衆院選期間中に証券会社「JC証券」から5千万円の提供を受けた細野豪志元環境相だ。
JC証券の親会社「JCサービス」の手掛けた自然エネルギー事業で、投資家から集めた資金が証券会社に流用され、細野氏に提供された疑いがあるとして、特捜部は証券取引等監視委員会と捜査に当たってきた。
細野氏は5千万円を個人的な借入金と説明して返済したものの、資産報告書に記載しておらず、後に訂正した。不実記載容疑は既遂となっている。
「資金提供を斡旋したといわれるコンサルタント会社『大樹総研』の関わりが焦点。細野氏を突破口に与野党議員に対する資金提供の実態解明に踏み込めるかどうか。森本部長の手腕が問われています」(司法記者)