観客も白熱 車いすラグビーワールドチャレンジ2019

車いすラグビーの強豪8カ国が連日の熱戦。日本代表の活躍で、観客数3万5千人超と国内パラスポーツ史に残る大会に。

2019年12月号 INFORMATION

  • はてなブックマークに追加

対イギリス戦でトライラインに向け疾走する日本代表のエース池崎大輔

今秋、台風で風水害が相次ぐ中、ラグビーの明るい話題に励まされた人は多かっただろう。では、同じ時期にもう一つのラグビー世界大会が行われたことをご存じだろうか。

10月16日から20日まで、5日間にわたり東京・千駄ヶ谷の東京体育館で開催された「車いすラグビーワールドチャレンジ2019」。来年の東京でパラスポーツとしてメダルを争うことになる、強豪8カ国の代表チームが出場。日本代表の活躍もめざましく、連日熱戦を繰り広げた。

観客席の興奮ぶりは東京スタジアムや花園ラグビー場に負けず劣らず。最終日、閉会式で日本車いすラグビー連盟の高島宏平理事長が「日本のパラスポーツ史上に残るすばらしい大会になった」と語ったとおり、期間中は延べ3万5千人以上が来場。日を追うごとに観客が増え、関係者の予想を超える盛り上がりとなった。

車いすの疾走感とタックルの大音響

車いすラグビーは、四肢に障がいのある人のためカナダで考案されたスポーツ。1チーム4名で競い合う。選手は障がいの程度に応じ、重い0.5から軽い3.5まで一人一人持ち点があり、4名の合計は8点以下と決められている。ボールを持ってトライラインを越えれば得点。相手方の動きを阻止するため、車いす同士をぶつけるタックルが認められている。

3位決定戦でイギリス選手の行く手を阻む今井友明(中央)・若山英史(右)のディフェンス陣

今回出場したのは日本、アメリカ、オーストラリア、イギリス、カナダ、ニュージーランド、ブラジル、フランスの世界上位8カ国。日本代表は昨年の世界選手権で優勝した実績もあり、メダルの有力候補だ。大会の初戦を飾った日本―ブラジル戦では、17歳の新星・橋本勝也選手ら代表12人が全員出場、期待に違わず61対42と快勝。2日目の対フランス戦も順当に勝ち進んだ。

初日の会場では学校ぐるみで来場した子どもたちはじめ、車いすラグビーは初観戦という人が多かったようだ。だが、場内では実況解説やルールの説明が音声で流れて初心者にもわかりやすく、車いすで疾走するスピード感と激しいタックルの大音響の迫力に、観客はすぐに引き込まれた。ディフェンス陣をかわして間隙を突くトライを決める場面や、相手方からボールを奪取する場面では、観客席から場内が一体となる大きな声援が送られた。

試合と試合の合間には、DJの呼びかけで観客が立ち上がり、音楽に合わせて一緒に手を叩く時間が設けられるなど、雰囲気づくりにも工夫が凝らされ、客席はリラックスして自然に応援ムードになった。金曜のナイターとなった3日目の日本―イギリス戦では、会場に仕事帰りのスーツ姿も目立ち、当日の入場者数は1万1200人超。試合は中盤まで同点の接戦を制し、日本代表が勝利。観客席は沸きに沸いた。

応援の声が選手の力に

決勝戦で激しくぶつかり合うアメリカのチャック・アオキ(右端)、オーストラリアのライリー・バット(中央右)ら

4日目の準決勝では、日本代表が2人のスター選手を擁するオーストラリアと対戦。大接戦の上、残念ながら1点差で競り負ける結果となった。だが最終日の3位決定戦では、再び対戦したイギリスに勝利し、銅メダルに。日本代表のエース池崎大輔選手は「自分たちの出せるものは出せたが、金を獲れなかったという悔しさしかみんな残っていないと思う。その悔しさをバネに、来年の東京に向け悔いが残らないように自分たちの時間を使っていきたい」と語った。決勝戦ではアメリカとオーストラリアが対戦し、オーストラリアの疲れを誘ったアメリカが59対51で優勝した。

金メダルを手に記念撮影に臨むアメリカチーム

各国の選手たちがアスリートとしての力をまざまざと見せつけ、ハイレベルな試合の連続だった、この大会。スリリングな展開に多くの観客が声援を送り、ニュースや中継で放映されたこともあって「こんなにたくさんの人が見てくれるのは初めて」(関係者)という観客数につながった。会場の熱気は、選手にも大きな力となったようだ。

日本代表のキャプテン池透暢(ゆきのぶ)選手は「コートの中と会場の一体感があり、こんなにも自分たちに力をくれるんだなと今大会で初めて知ることができた」と語った。また外国選手も「応援の声が聞こえてきて、すごくいい気分でした」(豪代表ライリー・バット選手)「すばらしい大会だった。こんなに観客が来てエキサイトしてくれて、とても嬉しかった」(米代表チャック・アオキ選手)と話した。

3位決定戦で勝利し、祝福する観客たちに応えながら退場する池透暢キャプテンら日本チーム

日本障がい者スポーツ協会などが三菱商事などの協賛を受け、3年前から計画を進めてきたこの大会は、名実ともに来年の東京の前哨戦となった。惜しくも3位だった日本代表も他国チームも、ここで得た教訓と経験を生かして今後、さらにパワーアップするのは確実だ。2020年、彼らはどんな試合を見せてくれるのか。輝くメダルの行方、大いに期待が持てそうだ。

(取材・構成/編集委員 上野真理子)

   

  • はてなブックマークに追加