「難治性便秘」治す医療機器作る
2019年12月号
BUSINESS [ヴィジョナリーに聞く!]
1981年11月生まれ、38歳。2007年東大医学部を卒業。日赤医療センターで循環器内科医として勤務後、東大大学院に戻り16年に医学博士に。17年8月にAlivasを設立。
――どうして起業を。
田島 大学1、2年の時に工学部にあった起業に関するゼミに入り、会社を一つ立ち上げました。中心的なメンバーではなく、3年になって医学の勉強が始まると忙しくて途中で抜けるのですが、起業というものに関心を持ちました。その後、治療でカテーテルや人工心肺といった医療機器をよく使う循環器内科の医師になりました。3年後、大学院に戻りゲノムの研究をしていてそろそろ学位が取れそうだという時に、スタンフォード大学がやっている医療機器の開発のための教育プログラム(Japan Biodesign)が東大でも始まるという知らせが届きました。病院で勤務していた時、CTなど診断に使う医療機器は日本製が多いのに、毎日の治療で使うカテーテルなどの医療機器は全部海外製であることが気になっていたこともあり、日本でも医師が医療機器開発のスタートアップをやらなければならない、と思い参加しました。
――どんな内容でしたか。
田島 エンジニアたちとチームを組んで病院に行って、現場で困っていることや、こういう医療ができるはずなのにできていないという「ニーズ」を200から300個見つけることから始まります。それをスクリーニングし、一番取り組むべき価値があるニーズを選びます。最初は電子カルテが使いづらいといったレベルの低いニーズが見つかるのですが、そういうものには飛びつかず、1カ月くらい病院を見学します。するとディープで、伸び代が大きく、競合がないニーズが見つかるようになります。我々が選んだのは、当初全然予想していなかった難治性便秘の治療でした。ニーズが決まれば次は解決方法を10個、20個と考えていきます。めちゃくちゃにワイルドに考えてから緻密に絞っていき、一番いいコンセプトを選びます。
――便秘を選んだ決め手は。
田島 患者数の多さです。先進国では便秘の罹患率は14~17%もあり、患者の裾野が広いので重症の方がそれなりの数いらっしゃいます。治療法は基本的に下剤の内服しかなく、満足度もものすごく低いんです。7割の方が不満と答えていて、効いて便は出るけどお腹の痛みが取れないという不満もあります。機器はあと2年ほどで開発できますが、非臨床試験・臨床試験などの検証に5年かかるので実用化は7年後という感じです。
――先駆けとして一言。
田島 起業というキャリアパスが医者の中で一般的になって欲しいと思います。医療界はお堅い業界で、起業は白い目で見られることがないわけではありませんが、医療的な価値を向上させた上で儲けることは、責められることではないと思います。
(聞き手/本誌編集人 宮﨑知己)