「困った人たち」ではない
2019年9月号 連載 [編集後記]
ジャーナリスト 池上正樹氏
「引きこもる人は自分の価値観を守るため、自殺ではなく生き続ける道を選んだ。死なないで過ごし、一生懸命生きる意味を探している。当事者たちは生きる意欲を持てる居場所を求めている」
(ジャーナリストの池上正樹氏、7月24日、日本記者クラブでの記者会見で)
80代の親御さんが50代の引きこもる当事者と世間から隠れるように暮らす「8050問題」が、今年相次いで起きた殺人事件で、いびつな形でクローズアップされた。
特にひどかったのは、テレビコメンテーターの「死ぬなら一人で死ねばいい」とか「モンスター予備軍だ」などとの発言で、引きこもる人は危ないという偏見が急激に広まってしまった。
引きこもる人を長年取材してきた池上さんは、「引きこもっている人は、他人との交わりを避けられる場所でないと生きられない人で、どの年代からも、誰でもなりうる」としたうえで、「他人を傷つけたり、傷つけられたりすることを避け、人間関係を遮断している人たちなので、理由なく無関係な人に危害を加えることは考えにくい」とし、そのような偏見を持つべきでないと主張する。
日本では、8050問題だけではなく、どんな社会問題も当の本人たちへのアプローチはそこそこに、「就職氷河期で仕事にありつけなかったのが原因ではないか」などと経済構造に問題があったと捉えてしまいがち。自ずと解決策は経済的な対策に偏り、自治体などは就労支援や職業訓練中心で、引きこもっている人を無理やり逃避対象の企業社会に連れ戻そうとしてきた。
池上さんは、「引きこもっている人は『困った人』ではなく、『困りごとを抱えている人』だ」と話す。社会問題の解決には、通り一遍の価値観を捨て、当事者に向き合うことが必要だ。