植物育種研究所代表取締役 岡本大作

赤い健康タマネギ「育種」で作る

2019年9月号 BUSINESS [ヴィジョナリーに聞く!]

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岡本大作氏

岡本大作氏(おかもと だいさく)

植物育種研究所 代表取締役

1968年広島県生まれ、51歳。91年北大農学部を卒業しデンマーク国立植物土壌科学研究所に留学。92年タキイ種苗に入り、2000年独立し植物育種研究所を創設。05年に北大で農学博士号を取得。

――さらさらレッド人気です。

岡本 健康に良い成分ケルセチンが多く入っていて、しかも美味しいとご好評を頂いています。注目のケルセチンの含量は肥料や育て方ではなく遺伝的要因で決まるのではないかと思い、まず、世界中のジーン・バンクに手紙を出し、300種類のタマネギの種子を集め、同じ畑で肥料など栽培条件も同じにして、2年連続で作りました。収穫して分析すると、思った通り含量はタマネギ品種の由来によって傾向がはっきりしていて、中にはゼロのものもあったので育種により含量の多いものを作れると確信しました。もっとも農作物として普及させるにはある程度の収量があり、病気に強いものにしないといけません。そこでケルセチンを多く含む系統と栽培しやすい系統を掛け合わせ、農業的形質を高めたタマネギを2006年に作り上げました。それが「さらさらレッド」です。

――なぜ健康タマネギを。

岡本 タマネギは世界ではトマトに次いで2番目に多く食べられ、儲かるので世界中の種苗会社が種子のシェアを伸ばしたいと考えている野菜です。それをゼロからやって勝てるわけがないので、高付加価値なもの、ニッチだけどうちにしかできないものを作ろうと考えました。分子生物学やバイオを研究し、今後は「自然のものを美味しく食べて健康になる」との志向が強まるので、そこを差別化することが必要だと思いました。農産物の世界はこれまで、「トマト作り名人」と自称したり、「なんとか農法で作りました」と言ったりして差別化するのが主流でしたが、科学的根拠を示すのです。トマトはスーパーに十種類ぐらい並んでいますが、タマネギはただタマネギでしかなくまったく差別化されていないので将来有望だと思いました。

――生産も販売も斬新です。

岡本 北海道の栗山町の農家に契約生産の形で作ってもらっています。種子を預け、秋にタマネギにしてもらい、全量を買い取ります。販売はまず札幌の百貨店にこの値段で買ってくださいとお願いして置いてもらい、ブランド力を高めながら徐々に広げてきました。ビジネスのコアは種子ですが、儲けは種子そのものではなくもっと利益の大きくなる川下で得る形にしています。トータルビジネスの中から利益が戻ってくるようにしないと、農産地はいつまでたっても都会の業者を儲けさせるだけの存在になります。それは悔しいので、オンリーワンのものを作って出荷価格を自分でコントロールできるようにしました。

――将来の目標は?

岡本 消費者目線で育種を続けます。世界で、健康タマネギのような機能性の高い野菜のブランド化に挑戦したいです。

(聞き手/本誌編集人 宮﨑知己)

   

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