アグリクリニック研究所代表取締役社長 村井 保

イチゴの病害虫を炭酸ガスで防除

2019年4月号 BUSINESS [ヴィジョナリーに聞く!]

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村井  保

村井 保(むらい たもつ)

アグリクリニック研究所代表取締役社長

1949年大阪府生まれ、69歳。76年岡山大院を修了し島根県職員に。岡山大、農研機構果樹研究所を経て、05年宇都宮大学農学部教授に就任。退官1カ月前の15年2月にアグリクリニック研究所を設立。

――農薬で退治するのではないのですか。

村井 虫が農薬に対し強い抵抗性を持つようになり、10年ぐらい前から化学農薬が本当に効かなくなってきました。卵からかえって1週間で成虫になるナミハダニというダニが特に強く、イチゴに限らず多くの果物や野菜、花卉で問題を引き起こしています。外国から入ってきたコナジラミの仲間はウイルス病を撒き散らし、トマトに深刻な被害を与えています。新しい薬もすぐ効かなくなる状態なので、化学農薬に代えて、以前から研究していた炭酸ガスで病害虫を防除しようと考えました。

――どのような仕組みで虫をやっつけるのですか。

村井 虫は、高濃度の炭酸ガスにさらされると、体液にアルカリの重炭酸塩が蓄積し、うまく代謝ができなくなって死にます。虫は温度が高いほど多くの炭酸ガスを取り込むので、できるだけ高温にしたいのですが、それでは作物のほうがやられてしまいます。幸いイチゴの場合、40度まで上げられ、6時間で完全に防除できます。最初はアルミ蒸着袋に苗と炭酸ガスを入れる方法でやっていましたが、昨年、ガスの濃度や温度をより簡単にコントロールできるコンテナタイプの装置を作りました。一旦苗の虫を全滅させると、後から入り込んできた虫は数が少ないうちに天敵のハチなどで簡単に防除できます。

――取り組みのきっかけは。

村井 微小害虫対策やその天敵の飼育を専門に研究をやってきました。島根県の農業試験場にいた時には、IHIと一緒にバナナに付くカイガラムシをフィリピンから船で運ぶ際に、船の排気ガスの二酸化炭素を使って防除してしまおうという研究をしました。この時は濃度を14%までしか上げることができず失敗に終わりましたが、その後の果樹研究所時代もクリやリンゴ、ナシにつく害虫を研究していました。そうしたところ宇都宮大の応用昆虫学教授の公募があったので手を挙げ栃木に来ました。ちょうどイチゴの問題があったので応用しました。

――効果が期待できますね。

村井 この装置を使えば外国から入ってくる病害虫を輸出入の検疫で完全に防除する態勢を作れます。野菜や果物だけでなく、花や小穀物、パスタなど小麦を使った食品、お菓子、飼料の病害虫防除にも使えるようにしたいと考えています。貯蔵、流通時の防除です。燻蒸には今はリン化アルミニウムや青酸ガスを使っていますが、炭酸ガスでできるようになれば、入手が簡単なので便利です。虫が防除済みであることと、ウイルス病などにかかっていないことを証明する診断書付きのイチゴの苗の製造販売も検討しています。

(聞き手/本誌編集人 宮﨑知己)

   

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