とんがった大阪万博!夢多きJスタートアップ
2019年2月号
POLITICS [リーダーに聞く!]
1962年生まれ。早大政経卒。NTT入社。ボストン大学で修士号取得。98年参院和歌山選挙区初当選(当選4回)。祖父は近畿大学の創設者、世耕弘一氏(元経企庁長官)。自らも近畿大学第4代理事長を務めた。16年8月より現職(初入閣)。現在、経産相在位が歴代2位(2年5カ月)。
――決選投票でロシアを破り、12月21日に大阪万博担当相に任命されました。
世耕 ロシアは、何と言っても初開催。「なぜ、6度目の日本なのか!」という攻勢は痺れるものがありました。決戦前夜の票読みでも勝敗がわからず、いやがうえにも緊張が高まる。翌朝、私の携帯に「皇国の興廃此の一戦に在り……」と、総理からユーモアたっぷりのショートメール。私はスタッフ全員を集め、「今夜のプレゼンで敵艦隊を撃破する」と気合を入れ、「パリの空は晴朗なれどセーヌ川の波高し」と返信しました(笑)。
――What a Wonderful Worldのメロディーが耳に残るプレゼンでした。
世耕 録画で登場したプーチン大統領はロシア語で5分間も演説したが、安倍総理はラストの30秒だけ。「大阪は準備ができている。私を信じてください」と、 Wonderful Worldをバックに英語で語りかけた。国家を前面に出さず、大阪の楽しさやcocreateな文化、そこで活躍する外国人にも光を当て、世界が共生する未来社会を訴えたのがよかった。
「大阪勝利」の瞬間!
――当初は劣勢と見られたが、結果は大阪92票、ロシア61票の大勝でした。
世耕 55年ぶり大阪万博再来は05年の愛・地球博のアセットが大きかった。愛知万博は当初、「森を守れ!」という反対運動が沸き起こり、これにパリの博覧会事務局(BIE)が呼応し、主会場が県立公園に変更され、史上初の森林保全の「環境万博」が実現しました。BIEの中には「愛知は素晴らしかった」という定評があり、時代の転換点の今、万博常連の日本に「未来を拓く万博」をデザインしてもらいたいという期待もあった。
大阪万博のポイントは、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)を加速させる場にすること。仮想現実(VR)などを使い世界中から仮想空間上で参加可能にすること。ロボットや人工知能(AI)など先端技術の実験場(パビリオン)を分散配置し、あえて中心を作らず、世界が共生するいのち輝く未来社会を表現すること。こうした人類共通の課題と向き合う斬新なテーマ設定が、世界各国の共感を呼び、ロシアに圧勝したのです。
――大阪万博の経済波及効果は?
世耕 政府の推計は約2兆円ですが、心理的効果は計り知れない。日本は東京五輪の5年後の大きな目標を手に入れた。まさに高度成長期に開催された東京五輪(64年)、大阪万博(70年)の再現です。思うに、あの6年間、日本は世界の脚光を浴び、日本の未来はどうあるべきか、国民皆で考え、たゆまず努力したからこそ、飛躍を遂げたのです。時は移り、今回は最速の高齢化が進む成熟社会日本を、世界の人々にどのように見てもらうかが、問われています。五輪から万博の「間合い」は重要です。後で振り返って「あの5年間に日本は変わった!」と思い出せるような、かつて見たことのない、とんがった万博にしたいと思います。
――経産相在位が歴代2位の2年5カ月となり、ロシア経済協力担当相として、首脳外交に同行することも多いですね。
世耕 経産相として41回外遊しましたが、総理のお供は官房副長官時代(21回)のほうが頻繁でした。日ロ首脳会談の焦点は領土問題と平和条約ですが、プーチン大統領は経済協力への関心が深く、個別案件が飛び出すため、経済協力担当相の私が常に陪席することになっています。
――総理の外交術は進化していますか。
世耕 6年前の再登板当時は「タカ派」のレッテルを張られ、オバマ前大統領やメルケル独首相としっくりいかない場面もありましたが、やがて両首脳の対応はリスペクトに変わった。安倍総理の内政・外交の実績がものを言ったのです。
12月にブエノスアイレスで開かれたG20は、米中摩擦で首脳宣言が採択できなかった11月のAPECの二の舞いになりかねなかった。「2度続けて出さないわけにはいかない」と、安倍総理が説得に回り、何とか首脳宣言がまとまりました。この時の安倍・トランプ会談にも陪席しましたが、ゴルフ談義から貿易問題まで和気藹々。「我が意を得たり」と、大統領が膝を打つ場面もあり、あんな打ち解けた会話ができるのは安倍さんだけです。
――ユニコーン(時価総額10憶ドル以上の非上場ベンチャー)の創出を目指すJスタートアップに力を注いでいますね。
世耕 経産省は20年以上、ベンチャー育成の旗を振ってきたが、見るべき成果がなかった。約1万社のスタートアップの中から、特に可能性を秘めた92社を選び出し、政府だけでなく、大企業やベンチャーキャピタルなどが構築するコミュニティーを通じて官民で集中支援する仕組みを作りました。日本生まれのユニコーンの数や規模感は世界で見劣りがする。世界で戦い、勝てるスタートアップが少ない背景として「ロールモデルの不在」が指摘されます。第一に「Jスタートアップ」ブランドとして国内外の投資家の認知度を高め、資金調達や事業提携につなげることを考えました。さらに、世耕経産相の「依怙贔屓プロジェクト」として、各社のトップ4~5人を大臣室に招き、昼食をとりながら意見や要望を聴くことも始めました。そこからJスタートアップブランドが政府調達に参加できるよう入札資格を開放し、IT補助金の煩瑣な書類提出を5分の1に減らす成果が出ました。23年までに世界に通用するロールモデル「20社」を創出したい。
――来年度の経産省予算にキャッシュレス決済時のポイント還元制度に必要な約2800億円の予算が計上されました。
世耕 当初、消費税増税時の消費の落ち込みを防ぐ狙いから還元率2%と思っていましたが、実はこれが総理のツボにハマっちゃったんです(笑)。日本のキャッシュレス決済比率はわずか20%。韓国の90%、中国の60%、欧米の50%と比べ物にならない。総理は「日本のキャッシュレス化を後押しする千載一遇のチャンス」と考え、5%への引き上げを決断したのです。キャッシュレス化に伴う決済データの蓄積は人工知能を賢くし「第4次産業革命」の柱となり、成長戦略に直結します。狙いすました誘導政策なんです。(聞き手/本誌発行人 宮嶋巌)