2019年2月号 BUSINESS
問答無用の強権発動!
「製品に法令違反の疑いがある」。昨年11月、機能性表示食品を販売する複数の企業に消費者庁からこんなメールが届き、面談を求められた。不安にかられた企業側は電話で呼び出しの意図を尋ねるが「電話では話せない」の一点張り。おそるおそる消費者庁に出向くとずらりと並んだ担当官から「薬機法(旧薬事法)違反」と告げられた。
ニセ医薬品を取り締まる薬機法違反とはただごとではない。同法を所管する厚労省から、機能性表示食品を所管する消費者庁に対して「歩行能力の改善」という医薬品的な効能効果を謳った製品があるとの指摘があり、「対応せよ」とのお達しだった。
事実上の販売中止(製品撤回)要請である。届出とはいえ、消費者庁が受理した機能性表示食品が、薬機法違反を問われた例はない。「他の製品は大丈夫か」
「厚労省は制度を潰す気か」。業界にはショックと不安、怒りが広がっている。
アベノミクスの成長戦略として「機能性表示食品制度」が創設されたのは2015年4月。年々拡大する健康食品市場(1兆2千億円)は玉石混淆。このうち、機能性表示に科学的な根拠があり、品質や安全性を担保できる製品を消費者庁に届け出、消費者の健康増進に役立てる目論見だった。19年1月現在、機能性表示食品は1500製品を超え、市場規模も2千億円に近付いている。そこに冷や水だ。
憤りは厚労省だけでなく、消費者庁にも向かう。薬機法違反とされた「歩行能力の改善」の表示は、消費者庁が事実上お墨付きを与えたものだからだ。
機能性表示食品は、表向きは届出制だが、実際は消費者庁が科学的根拠や安全性を確認し、とりわけ機能表示については医薬品と間違わないよう厳しくチェックする。問題があれば「不備指摘」を受けるため薬機法違反の表示は受理されないはずだ。
1回の資料のやり取りにはおよそ50日、修正資料の提出は4~5回を超えるため、受理までに半年以上かかることがザラだ。時間と労力をかけて販売に漕ぎ着けた機能性表示食品が「サドンデス」ではたまらない。
指摘を受けたと見られる15製品のうち、既に7製品が「届出撤回」の手続きを行った。注目は「歩行能力の改善」を謳う「アミノエール」を販売し、健康食品産業協議会の会長を務める最大手の味の素の出方だ。主成分ロイシンを含むアミノ酸で臨床データを届け出、他社に原料供給も行っているからだ。
狙い撃ちされた「アミノエール」(味の素HPより)
厚労省はなぜ、消費者庁の頭越しに「歩行能力の改善」を狙い撃ったのか。関係者はアミノエールの広告が「行き過ぎた」と指摘する。併せて医薬品に全く同じ表示があったことも影響したようだ。一方、同じような印象を受ける「歩行能力の維持」の表示はお咎めなし。なぜ「改善」がNGで「維持」がOKなのか意味不明だ。強権を発動した以上、厚労省には説明責任が生じよう。現行の制度下では、届出表示を撤回し、新たな表現で再届出となれば最低でも2カ月はかかるだろう。その間、販売、広告は行えず、棚落ちや流通のペナルティも発生する。何らかの救済措置が必要だ。
「薬機法の一にらみで消費者庁も業界も右往左往。哀れなものですよ」。関係者はこう自嘲する。最善策はサプリメント法制定だが、初夢どころか「夢のまた夢」のようだ。