2019年1月号 POLITICS
安倍晋三首相の「お友達」の一人、河井克行・自民党総裁外交特別補佐(衆院広島3区)の評判が芳しくない。
広島県議の妻・案里(あんり)氏の参院選出馬を画策し、県政界の大先輩・亀井静香氏の逆鱗に触れた話から始めよう。
10月下旬、亀井氏の元に届いた勉強会の案内状にこんな文面があった。「参院選広島選挙区から河井克行代議士夫人の案里さんが出馬の決意を固めました」。亀井氏は講師として招かれていたが、参院選のことなど寝耳に水。「勝手に名前を使われた」と立腹し、11月初旬に開かれた勉強会は欠席した。
広島選挙区(改選数2)で自民党は、現職の溝手顕正氏の再選に加え、野党分裂を好機と見て2議席目も窺う。とはいえ県連は岸田文雄政調会長(衆院広島1区)率いる宏池会の牙城で、河井氏とは距離がある。案里氏擁立は県連の総意ではない。河井夫妻が当てにしたのが、案里氏が9年前の県知事選に立候補(湯崎英彦・現知事に敗れた)した際に支援した亀井氏。だが事前に何の根回しもせず、かえって不興を買ってしまった。
7月上旬に広島県などを襲った西日本豪雨の際には、河井氏のスタンドプレーが地元市町の住民対応を混乱させた。
今回の豪雨災害では、宅地に流入した土砂や瓦礫の撤去費用を住民が立て替えた場合、市町に申請すれば民法の「事務管理」(法律上の義務のない者が他人のために事務を処理すること)の規定に基づき償還に応じてもらえる。原資の大部分は国が補助金などで賄う。このスキームは過去の災害でも採用されており、目新しいものではない。
だが河井氏は、自身が菅義偉官房長官に働きかけて制度を実現させたかのようにブログや国政報告の冊子などで喧伝。あまりの我田引水に、有権者から「ホラばあ吹きよるんじゃないぞ」と呆れられている始末だ。
問題は、各市町で申請の受け付け態勢が整う前に地元紙・中国新聞に「環境省が全額の事後精算に応じる」と報じられたことである。河井氏のリークとみられている。広島市は「問い合わせが殺到したので、やむを得ず受け付けだけは前倒しで始めた」(担当者)。同市の場合、国との調整を経て申請の受け付け開始を告知したのは8月上旬。それまでの間、河井氏のブログや中国新聞の読者にしか行政サービスの情報が伝わっていない不公正な状態が続いた。
「得意分野」の外交も、その内実はお粗末である。
河井氏と言えば首相補佐官だった2016年11月、米大統領選でのトランプ氏当選を受けて急遽ワシントンに派遣され、同氏に近い共和党関係者と接触、最初の安倍・トランプ会談の地ならしをしたとされる。だが「英語をろくに話せない」(安倍首相周辺)河井氏がどうやってこの仕事をしたのか。永田町では、熱烈なトランプ支持者で「共和党全米委員会顧問」の肩書きを持つ幸福実現党元党首の人脈を頼ったと囁かれている。
安倍首相は18年9月の日米首脳会談で、物品貿易協定(TAG)と称する事実上の自由貿易協定(FTA)の交渉入りを呑まされた上に、高額な防衛装備品も買わされた。屈辱的な外交である。河井氏のワシントン訪問はこの2年間で11回を数えるが、「一体、何の役に立っているのか」(政治部記者)。