ふくしま逢瀬ワイナリー 緑の中のピアノコンサート

郡山産ブドウの初醸造を記念して開かれた西村由紀江さんのコンサート。里山の風景にグランドピアノの音色が響いた。

2018年12月号 INFORMATION

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福島県郡山市逢瀬町。猪苗代湖に向かう道沿いに、黄金色の田んぼが広がる。実りの秋を迎えた10月13日、「ふくしま逢瀬ワイナリー」を訪れると、たくさんの赤トンボが澄んだ空気に舞っていた。

三菱商事復興支援財団が郡山市と連携して設立した郡山初のワイナリーは、10月で3周年を迎えた。郡山市内の協力農家ではこの秋初めて本格的な収穫を開始。そうして獲れた7トンものブドウが今、ワイナリーの醸造タンクの中で発酵を始めている。

この日、ワイナリーでは郡山産ブドウの初醸造を記念して、ピアニスト西村由紀江さんのコンサートが開催された。西村さんはクラシックピアノを学ぶ一方で幼い頃から作曲の才能も注目を集め、映画やドラマのテーマ曲など、多数のオリジナル作品を発表、長年にわたり第一線で活躍してきた。土曜日の昼下がりで家族連れも来場する野外コンサートとあって、西村さんが考えたのは、誰もが知る親しみやすい曲目を交えたバラエティに富んだプログラム。客席は小さい子どもから年配者まで、幅広い年代でほぼ満席になった。

客席と一体になった「ふるさと」

緑の芝生の上に設えたステージの上に、グランドピアノ。会場の客席はブドウの収穫で使った青いプラスチックのコンテナを逆さまに置いて椅子代わりにしている。

コンサートはミュージカル「サウンド.オブ.ミュージック」のメドレーからスタート。オリジナル曲も織り交ぜながら計9曲の演奏となった。

「今日はお天気にも恵まれ、気持ちのいい風に吹かれながらピアノを弾けることを幸せに思います」

佐々木宏さん(左)と西村由紀江さん

曲の合間のお喋りから、手作りのあたたかさが伝わる。西村さんが初めて逢瀬ワイナリーを訪れたのは昨年2月。「いつかこの場所でピアノが弾けたら」という願いが、このコンサートで実現したという。途中、ワイナリーの醸造担当、佐々木宏さんが登壇し、イギリスのコンテストで銅賞をとったリンゴのシードルを披露する場面も。

「飲む前からリンゴの香りがして、おいしいですね。佐々木さんは素材を大事にすると仰っていましたよね」(西村)

「できるだけ素材の味わいを引き出したいなと思って。福島の農家さんたちは一生懸命栽培に取り組んでいらっしゃるので、こちらも本当に手が抜けない。これから先、もっともっといい素材が生まれる場所ではないかと思っています」(佐々木)

西村さんの奏でる、時に軽快、時に語りかけるような音色が、客席を魅了する。ステージのグランドピアノは、実は東日本大震災の際にいわき市の豊間中学校で海水に浸かりながら、調律師の努力により再生され「奇跡のピアノ」として話題になった、そのピアノだ。修復後はさまざまな催しに貸し出されてきたが、被災地にピアノを届ける活動を続ける西村さんが、再建された豊間中学校に届ける直前に、逢瀬ワイナリーで演奏することになった。グランドピアノならではの豊かな幅と奥行きのある響きだ。

客席と一緒に即興で作った「郡山の風」は、まさにその場の爽やかな空気を映したような一曲となった。コンサートの最後の曲は「ふるさと」。西村さんのピアノに、会場の人々が歌声を合わせた。里山の風景の中で、客席とステージの思いが一つになった瞬間だった。

コンサートを終えた西村さんは「風景と雰囲気に助けられた」と話した。

「こうして野外でピアノを弾けることって滅多にないんですよ。今日のコンサートは、雨天中止のリスクがあっても絶対にやりましょうと関係者の皆さんが言って下さって実現しました。奇跡のピアノは、多くの人に聴いてもらってきたからか、以前に東京で弾いたときとは違って温かみや深み、透明感が加わっていました。やっぱりピアノは生きものなんですね」

来年春にはワイン初出荷

ワイナリー内のショップではリンゴのシードルやリキュールを販売

客席には、地元の家族連れなどのほか、ワイン用ブドウを出荷する農家の一つ、橋本農園の橋本寿一さんの姿も。「8月は後半に雨が降ったけど、今年は気温が高かったのでブドウの出来はいい方だと思う。来年ワインができたら、美味しいワインを飲みたいものだね」と笑顔をみせた。

初醸造の記念の年に開催された心に残るコンサート。現在醸造中の郡山産ワインは、白はシャルドネ、ソーヴィニヨン.ブラン、赤はメルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン。出来具合を見極めた上で、来年3月くらいを目処に出荷される見込みという。来年は素晴らしい音楽を聴きながら新しい特産ワインを味わう、そんな楽しみも増えそうだ。

(取材・構成/編集委員 上野真理子)

   

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