弁護士(オリンパス法務部渉外グループ主任)榊原 拓紀 氏

オリンパスを内部告発 機能不全の社外取締役

2018年12月号 BUSINESS [ウィッスルブロワーに聞く]

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榊原 拓紀 氏

榊原 拓紀 氏(Hiroki Sakakibara)

弁護士(オリンパス法務部渉外グループ主任)

1987年東京生まれ。2012年東京大学法科大学院卒、13年弁護士登録(第66期)。西村あさひ法律事務所などを経て、16年オリンパス入社。今年1月、公益通報者保護法違反などでオリンパスと役員らを提訴し、現在は懲戒処分を受け自宅謹慎中。

写真/吉川信之

――中国・深圳での贈賄疑惑に蓋をしようとする会社に異を唱えた社員が左遷され、これを公益通報者保護法違反として会社を相手に訴訟を起こしました。

榊原 自分が声を上げることで、社内でまだ迷っている人たちに考え直してもらえればと思っています。オリンパス製十二指腸内視鏡によって米国で超耐性菌に大量感染した訴訟案件は私が担当していたのですが、今も司法省の調査が継続中で待ってくれません。製造物責任(PL)訴訟も、会社にとって最も危険なカリフォルニア州案件が進んでおり、陪審審理は来年1月に控えています。それは司法省の調査結果にも反映され、制裁金などを決める際、法令違反を犯したことの改善状況も考慮されるはずです。

昨年6月にこの改善状況についてプレゼンを開いたところ、司法省から「企業文化の改善はどうなっているか」との指摘がありました。この流れを踏まえると、深圳の問題は会社が自浄作用を働かせて解決しないと、司法省は見逃さないと思います。米国での過剰接待などが問題になった際に結んだ訴追延期合意(DPA)は来年2月が満期で、そこで司法省の姿勢が見えてくるでしょう。

「米国市場から排除」のリスク

――リスクは罰金にとどまらない?

榊原 オリンパスの米国事業は三つのリスクを抱えています。深圳での贈賄による米連邦海外腐敗行為防止法(FCPA)違反と、DPA違反、そして十二指腸内視鏡案件の三つです。過剰接待では和解の制裁金として16年に740億円の支払いで合意していますが、これがDPA違反となった場合のリスクは大きい。また、十二指腸内視鏡の件ではオリンパスが故意に連邦食品・医薬品・化粧品法(FDCA)違反を犯したか否かの文言次第では米国市場から排除されるリスクがあります。米国の代理人が出した意見書もそう指摘した。十二指腸内視鏡で亡くなった人数はエアバッグのタカタに匹敵すると記憶しており、重大な問題です。

――左遷人事に警鐘を鳴らしたことに対し、社外取締役はどう対応しました?

榊原 昨年12月6日に社外取締役全員にこの異動は問題だとメールを送りましたが、「左遷された人物に話を聞かせてほしい」と言った人はいませんでした。「通報は受け取りました。取締役会で取り扱います」でおしまいです。

特に社外取締役の神永晉(すすむ)氏と岩村哲夫氏はコンプライアンス委員会のオブザーバーとして案件をチェックする立場です。深圳問題を追及した人物が異動になったことにきちんと対応してほしいというメールは二人にも送ったのですが。

――オリンパス取締役会11人のうち6人が社外で、コーポレート・ガバナンス上は優等生に見えますが。

榊原 社外取締役が機能しているとは思えません。社内弁護士の私が会社を提訴することは、昨年の大みそかに会社に伝えてあり、藤田純孝社外取締役には「本気でやりますよ」と伝えましたが、返事は「了解しました。よいお年を」との一言。こっちは会社を訴えるのがどういうことか覚悟を決めていると言っており、少しは自分で考えて行動を起こしてほしかったのですが、それはなかった。

そこで訴訟資料をオリンパスの封筒に入れて、藤田氏の出身母体である伊藤忠商事と取締役会議長(当時)の蛭田史郎氏の旭化成に送りました。古巣の方々にも、何をやっているか見てもらえると思ったからです。藤田氏から電話があり「書類は受け入れるが、私への親展として送ってくれ」と言うので「社外取締役として動く前に面子を気にするのか」と落胆し、「あなたの仕事は笹社長に報告するだけか」と強く非難しました。

――社外取締役は当初「きちんとやる」と言っていたが、尻すぼみになった?

榊原 独立取締役には社長の解任権限があります。リーガルマターがわからないなら、知人の弁護士に相談すればいい。藤田氏は裏では「オリンパスのコーポレートはレベルが低い」と言っていた。それが分かっているなら、底上げのため自分で努力すべきじゃないですか。自分の言葉に責任を持ってほしい。

私が昨年9月、企業文化について社外取締役6人と社外監査役2人にインタビューしたときには、片山隆之社外取締役は(出身母体の)帝人で内部通報制度を構築したことを誇っていましたから、決して内部通報やコンプライアンスに鈍感なはずはありません。でも、自宅謹慎の私に事実確認のために連絡を取ろうとしてきた社外取締役すらいません。社外監査役の名取勝也弁護士は、深圳問題について相談を持ちかけられた当初、「こんな話を私のところに持ってくるな」とはねつけたことが記録に残っています。

「類は友を呼ぶ」日本株式会社

――触らぬ神に祟りなしですか。

榊原 会社が世間からどう見られているか、オリンパス首脳陣は真剣に受け止めていないと感じました。むしろ自分の体裁、それも社会からではなく、出身母体やオリンパスからどう思われるかしか考えていない。自分が何で社外取締役としてお金をもらっているのか、自覚してほしいという思いがあります。

これはオリンパスにとどまらないと思います。伊藤忠、旭化成など、オリンパスのプロパーでなかった取締役まで、損失隠しで世間に指弾された会社の体質に染まってしまった。「類は友を呼ぶ」なのか、「朱に交われば赤くなる」なのか。

社外取締役はお膳立てをしてもらうことに慣れてしまって、自分で考えて行動することができなくなりました。

――日本株式会社の病弊ですか。

榊原 損失隠し事件に関わっていた笹社長がお咎めを受けずに残ったように、問題を起こした人が何の評価も受けずに次のステップに進むと、組織がだんだん歪む気がする。倫理が摩耗してしまい、摩耗した人間が次の人間を持ち上げていく。社内は様々な資格を持った優秀な人材がいるのに、冷や飯食いにされて辞めていってしまう。「第三者委員会が立ち上がったらいくらでも話す」と言っている人はいるが、自分でリスクをとってモノを言わないとだめだと思います。

(聞き手 ジャーナリスト 山口義正)

   

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