編集後記「風蕭蕭」 白川優子「国境なき医師団」手術室看護師の記者会見から

2018年11月号 連載

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日本記者クラブで記者会見する白川優子「国境なき医師団」手術室看護師

「帝王切開で産まれた後、全然泣いてくれない赤ちゃんを蘇生していて思ったのは、イエメンは空爆だったりとか、貧困が続いたりとかで、難民の人たちがどんどん増えている。この子のお父さんも空爆で亡くなっていて、お母さんも栄養失調状態。ふと、看護師として絶対思ってはいけないんですけど、この子の命を助けることが果たして正しいことなのだろうか、そこまで実際に思ってしまったんです」(白川優子・「国境なき医師団」手術室看護師、10月4日、日本記者クラブでの記者会見で)

苦手の英語を豪州への留学と同地での病院勤務でマスターし2010年、36歳で国境なき医師団に参加した。以来、手術室看護師としてイエメンのアデンやサナアやイッブ州、シリアのイドリブ県やラッカ県やハサカ県、南スーダンのマラカル、イラクのモスル、パレスチナのガザ地区に赴いた。

そこには、ただの金属片だと思い誤って爆発物に触れ、手足を吹き飛ばされた少年たちや、空爆にやられてお腹から腸が飛び出た7歳の女の子ら、血だらけの一般市民が次々と運び込まれる。少年たちは命を取りとめたが、目が覚めたら手足が無くなったことに向き合わなければならない。女の子は、手術に成功と喜んだのも束の間、輸血の血液が足りず手術台の上で息を引き取った。

こんな極限状態にある人間に、ふと考えてしまってはいけないことなど、あろうはずがない。

紛争自体を止めなければ事の本質は解決しないとする白川さんは今年、自らの体験を一冊の本に著した。今年のノーベル平和賞は、「レイプは性的テロだ。戦争の兵器として使われている」と告発したコンゴの産婦人科医、デニ・ムクウェゲ氏が受賞する。

紛争地に身を置く医療従事者がジャーナリストの役割も兼ねて人間の愚かさと闘っている。

   

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