名刹に伝わる至宝が勢揃い!『京都・醍醐寺 ー真言密教の宇宙ー』 展

真言密教の聖地「花の醍醐」に伝わる宝物約15万件から、選りすぐりの国宝・重文など約100件を味わう、飛び切り贅沢な展覧会。

2018年11月号 INFORMATION

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桜の名所「花の醍醐」と親しまれる京都・醍醐寺は、平安初期の貞観(じょうがん)16(874)年、弘法大師空海(774~835)の孫弟子、聖宝(しょうぼう)(832~909)により開かれ、真言密教の聖地として歴史の表舞台に登場してきた。山科(やましな)盆地の東側、笠取(かさとり)山の山頂一帯「上醍醐(かみだいご)」と、山麓に広がる「下醍醐(しもだいご)」に約200万坪もの伽藍を擁する大寺院は、屈指の密教美術の宝庫でもある。その至宝を味わう、飛び切り贅沢な展覧会が今、東京・六本木のサントリー美術館で開かれている(11月11日まで)。

古(いにしえ)に空海が密教を学んだ地、中国で初の醍醐寺展が開催され、好評を博したのは2016年。東京での開催は、その記念展でもある。美術館学芸員の佐々木康之さん(仏教彫刻史)は、「個人的にも思い入れの深い醍醐寺さんからお話をいただき、大変な僥倖でした」と、微笑む。

「『現世利益(げんぜりやく)』をもたらす加持祈祷・修法(すほう)(儀式)に重きを置く醍醐寺には、ご本尊となる彫刻や絵画、修法で用いる仏具など約15万件もの名宝が伝わります。本展では選りすぐりの国宝や重文(重要文化財)など約100件をご覧に入れます」

威風堂々たる「薬師如来坐像(やくしにょらいざぞう)」

①重文『如意輪観音坐像』(平安時代、醍醐寺蔵、画像提供:奈良国立博物館)

展示室に入ると、まず重文『如意輪観音坐像(にょいりんかんのんざぞう)』 (①)の丸みを帯びた優麗な姿態に目を奪われる。「修行の地を求めて奈良からやってきた聖宝が、笠取山に草庵を結び、自ら彫った准胝(じゅんてい)・如意輪の両観音菩薩像を祀ったのが、醍醐寺の始まりとされています。こちらは、その根本像に近い像として信仰されてきた像。小さいながら密度が高く、平安彫刻の白眉とされる美しさです」(佐々木さん)

その効験から、朝廷の加護と歴代天皇の帰依を受けた醍醐寺は、やがて上醍醐から下醍醐へと広大な寺観を整えてゆく。醍醐天皇の御願(ごがん)により上醍醐・薬師堂の本尊として造られたのが国宝『薬師如来および両脇侍像(りょうきょうじぞう)』(②)であり、「当館始まって以来、最大級の展示作品です」と、佐々木さんは言う。確かに、大きな頭部といかり肩の威風堂々たる仏像が、3階展示室の吹き抜けスペースに鎮座する姿は、見物である。開幕前日には法要も行われ、密教らしい厳かで濃密な空気が漂う空間だ。

②国宝『薬師如来および両脇侍像』(平安時代、醍醐寺蔵、画像提供:奈良国立博物館)

もう一つの目玉は上醍醐・中院の本尊だった重文『五大明王像』(平安時代)。不動・降三世(ごうざんぜ)・軍荼利(ぐんだり)・大威徳・金剛夜叉の5躯が揃うものとしては、京都・東寺講堂像に次ぐ古作。多面多臂(ためんたひ)、凄まじい忿怒相(ふんぬそう)など、密教的な造形の真髄を、ガラスケース越しではなく、じかに味わうことができる。

太閤秀吉「醍醐の花見」を伝える逸品

③重文『不動明王坐像』(快慶作、鎌倉時代、1203年、醍醐寺蔵、画像提供:奈良国立博物館)

本展がユニークなのは、こうした「ご本尊」が造られた背景にも踏み込んだところだ。例えば「不動のメッカ」といわれる醍醐寺伝来の「白描図(はくょうず)」特集。「白描図とは仏像や仏画の下図となるもので、醍醐寺に多くの品々が伝わります。こちらの重文『不動明王図像』(④)は、絵画としても非常に美しく、長賀の画技を示す名品です。重文『不動明王坐像』(③)とほぼ同じ姿で描かれており、快慶がこのような図像を参考にしたことも考えられます」(佐々木さん)

醍醐寺は天皇、貴族だけでなく、鎌倉・室町幕府とも結び付きを強めていく。国宝『足利尊氏直筆書状』(南北朝時代、1351年)、国宝『足利義満御教書』(室町時代、1399年)といった書跡は、将軍家の帰依を受けた寺院としての隆盛ぶりを伝える。しかし、応仁の乱の戦禍で、建造物のほとんどが灰塵に帰すことになった。

④重文『不動明王図像』(長賀筆、鎌倉時代、醍醐寺蔵、画像提供:奈良国立博物館)

荒廃した醍醐寺の復興に尽くした座主の義演を後押ししたのは、安土桃山時代の太閤秀吉であった。重文『醍醐花見短冊』(⑤)は、最晩年の秀吉が催した「醍醐の花見」の華やぎを伝える逸品である。秀吉に始まり秀頼、前田利家らが当日詠んだ和歌が記される。展示の後半では、秀吉ゆかりの品々のほか、三宝院の襖絵、俵屋宗達による絵画など、醍醐寺にまつわる華麗な近世美術も満喫できるのが嬉しい。

深遠なる真言密教の「宇宙」が広がる展示空間の創出に挑んだという佐々木さんは言う。「古から信仰の対象となってきた仏像・仏画は、通常の美術品と空気感が違います。普段と異なる濃密な雰囲気が展示室を満たしています。一人でも多くの方にご来場いただき、密教美術の得も言われぬ奥深さを感じ取って頂けたら嬉しいですね」

(取材・編集/編集委員 和田紀央)

⑤重文『醍醐花見短冊』(安土桃山時代、1598年、醍醐寺蔵)

   

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