松井府知事も諦め顔?「大阪万博」に赤信号

2018年11月号 LIFE

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「バッドタイミングとしか言いようがない」(大阪府幹部)。

9月4日。大阪・泉佐野市などの沖合5キロを埋め立てて造られた関西国際空港(関空)に、台風21号の暴風と高潮が襲いかかった。メインのA滑走路は海水に覆い尽くされ、流されたタンカーが連絡橋に激突して車も電車も通行不能。停電の中、8千人もの乗客や従業員が置き去りにされた。世界中が日本の看板空港の危機管理のお粗末さに衝撃を受けた。

3年前の民営化で関空の経営権を握ったオリックスグループの関西エアポートは大混乱に陥ったあげく「飛行再開まで1週間程度かかる」としたが、これに大阪府の松井一郎知事が激怒する。絶好調に来たインバウンドへの影響もさることながら、大阪は「大阪万博(EXPO’70)の夢よもう一度」と2025年万博の誘致を目指しており、その開催地の決定が約2カ月後に迫っているからだ。台風の翌々日(6日)松井知事は急遽、上京し、安倍首相に関空の早期再開を強く要請。これに安倍首相も「国内線を明日中に再開」との宣言で関西エアポートの尻を叩いて後押しし、翌7日にはB滑走路を利用して19便ながらなんとか国内線が飛んだ。

そして被災後1週間もたたない9日、松井知事は、あえぐ大阪を尻目に中部国際空港からヨーロッパに向かう。万博開催地は11月23日のBIE(博覧会国際事務局)総会の投票で決まる。態度を表明していないハンガリーなどの支持を取り付けるための出張だという。「災害に弱ければマイナス評価になる。僕がキャンセルすれば都市として脆弱だと思われる」と「被災者放り出し」の批判に苦虫を噛み潰しつつも旅立った松井知事だが、大阪では6月に震度6弱の大阪北部地震が起きたばかり。そこへ台風21号だ。大阪だけではない。直後の6日には、震度7の「北海道胆振東部地震」が起きている。日本中どこもここも、いとも簡単に交通インフラがパンクし、大規模停電が起きて、なかなか回復しない。そして観光客が孤立する。世界はそんな映像を十分に見てしまった。

開催予定地の夢洲地区の安全への不安も再燃した。大阪湾を埋め立てて造った人工島の多くは、液状化や津波被害の懸念もあり未整備のまま放置されてきた「負の遺産」だった。それを「万博誘致」をきっかけに国のカネでインフラを整備した上で「IR(カジノ)誘致」に繋げて「宝島」に変身させようというのが、松井知事の壮大な目論見だったのだ。また、松井維新にとっては、来年の統一地方選、参院選などを見据え「大阪都構想」に代わる目玉政策とする狙いもある。だが、台風21号の暴風と高潮は無数の車をひっくり返しコンテナを押し流すほどの猛威で湾岸部を無残に蹂躙した。ライバルは、エカテリンブルク(ロシア)とバクー(アゼルバイジャン)。豊富な資金力としたたかな政治力の旧ソ連組を相手に、差が広がったのは確実だ。

もともと関西財界は経済効果が低いとされる万博誘致には消極的だったが、ある幹部は「日本は災害だらけでどうなってるんだというのが世界の見方でしょうね。益々厳しくなったのは間違いない」とため息まじり。大阪府の幹部も「もうダメだとみんな思ってますよ。松井さんも内心は諦めているのでは」と肩を落としている。

   

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