室﨑益輝・兵庫県立大減災復興政策研究科教授の会見から
2018年10月号
連載 [編集後記]
by 知
日本記者クラブで記者会見する室﨑益輝・兵庫県立大減災復興政策研究科教授
「残酷さをもっと伝えないといけないんですけど、概ね災害は美談のほうに話が持っていかれて、美談は美談で重要なんですけど、(次の災害をなくすためには)いかに残酷で、悲惨で、無慈悲で、不条理かということを伝えなくてはいけないんです」
(室﨑益輝(よしてる)・兵庫県立大減災復興政策研究科教授、9月10日、日本記者クラブでの記者会見で)
1944年8月、防空壕の中で生まれた日本屈指の防災学者は、災害が起きた際、次の災害をなくすために伝えなくてはならないのは、①災害の残酷さ②自然の偉大さ③人間の愚かさ④人間の素晴らしさの四つだが、①の災害の残酷さと③の人間の愚かさは、遺族や行政の反対で、伝えるのが実に難しいと語った。
確かに戦争にしても自然災害にしても、あれほどの大惨事が起き、多くの命が失われたのに、みんなでがんばっただの、彼は英知にすぐれていただのの英雄伝のほうがどうしても先に立つ。新聞やテレビは遺体の写真や映像は使わないし、検証作業もできるだけ責任追及に向かわないように行われる。
和を保つには「まあまあまあ」と目くじらを立てないことが必要だろうし、心の安寧を取り戻し、再び前向きに取り組むためには、忘却が必要だ。だが、それではまた誰かが心身を切り刻まれる災害に遭うことになる。
米映画『ハドソン川の奇跡』(16年、クリント・イーストウッド監督)は、バードストライクにやられたUSエアウェイズ機をハドソン川に無事不時着させ、全員の命を救ったチェスリー・サレンバーガー機長を称える映画だが、再発防止のため、「不時着が本当に必要だったのか」と彼に執拗に迫る米国家運輸安全委員会の委員の厳格な態度が印象に残る映画でもあった。台風に地震と災害が続く。私としては、美談は後回しにしたい。