MC FOREST スクールの夏休み「サンゴの不思議」子どもたちへのメッセージ

「国際サンゴ礁年」の今夏、サンゴ礁保全プロジェクトに取り組む三菱商事が、小学生向けの「サンゴ教室」を開催。

2018年10月号 INFORMATION

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「こんにちはー!」

夏休み真っ最中の8月9日、東京・丸の内にある三菱商事のCSRステーション、「MC FOREST」に小学生たちの元気な声が響いた。

ここでは毎夏、親子のための特別イベント「MC FOREST スクール」が開催されている。今夏のメニューはお絵かき教室、障がい者スポーツの体験など多彩な内容。この日のテーマは「サンゴの不思議」で、静岡大学の鈴木款(よしみ)特任教授を中心に、カサレト・ベアトリス教授、鈴木利幸特任助教、国士舘大学の中井達郎非常勤講師のチームが講師を務める。

「サンゴの不思議」に参加した小学生達と静岡大学の鈴木款特任教授(右手奥)

前方に置かれた水槽の中には、色も形もとりどりの小さなサンゴが輝いている。教室が始まる前から、子どもたちは興味津々だ。授業はサンゴについての話を軸に、水槽のサンゴがプランクトンを食べる様子を電子顕微鏡で観察したり、サンゴ礁の砂浜の砂を虫眼鏡で調べたりと、直接実物にふれあう体験学習。ほとんど初めて観察するサンゴの生態に、子どもたちのまなざしは真剣そのものだ。講師の先生たちはサンゴについてわかりやすく解説しながら、さまざまな問いを投げかける。

サンゴ礁の白い砂の中に、星砂や小さな貝などさまざまな形の粒が混ざっているのを発見

「サンゴは動物かな、植物かな?」「サンゴ礁の砂は白くてきれい。何からできているんだろう」「サンゴの体内にいる褐虫藻は何をしているの?」

大人にも難しい質問がいくつも飛び出す。遠い南の海でどんなことが起きているのか、なぜサンゴ礁の海が美しいのか。大きく謎めいた自然の力を伝えたいという先生たちの思いが伝わってくる。

「サンゴ礁はいろんな魚やウニ、ヒトデ、エビなどが棲む生きもの天国。サンゴがいるから他の生きものも生きられる。それはどうしてなんだろう」

水槽の中のサンゴに興味津々

沖縄で「サンゴ白化現象」を調査

沖縄での調査風景。参加のボランディアはこれまで約200人に及ぶ

今年が「国際サンゴ礁年」であることをご存じだろうか。サンゴ礁保全のため、取り巻く危機やサンゴ礁の生態系を守る大切さについて理解を広げる年として位置づけられている。そのサンゴ礁保全に長らく取り組んできたのが、鈴木教授ら講師チームの先生たちだ。三菱商事がCSRの一環として2005年から始めた「サンゴ礁保全プロジェクト」の沖縄での調査に参画、琉球大学やNGO、ボランティアの人々と共にサンゴ白化現象に着目した研究を続けている。

サンゴの白化とは、サンゴの体内に共生する植物プランクトン「褐虫藻」が何らかのストレスによって縮小・透明化し、サンゴが白くなることをさす。褐虫藻は光合成によってサンゴに栄養を与える重要な役割を果たしているので、褐虫藻が縮小・透明化したサンゴはやがて弱って死んでしまう。1998年にはエルニーニョ現象で海水温が高くなり、世界各地のサンゴ礁で白化が発生し、大きな被害が出た。しかし、これまで白化の原因は究明されていなかった。

鈴木教授らは沖縄で毎年2回、引き潮の時期に産・学・民の共同調査を続け、白化にバクテリアが関係していることを突き止めるなど、大きな成果を挙げている。12年には、研究をまとめた論文が国際サンゴ礁学会で最優秀論文賞を受賞した。

サンゴ礁はさまざまな生きもののすみかや産卵場所となっており、全海洋生物の4分の1が棲む。だが開発や地球温暖化の影響で近年は減少。その原因を作っているのは人間だ。サンゴの生態や病気についてはまだ謎が多く、美しい海と生物の多様性を守るためには、一人ひとりの理解や積極的な行動が欠かせない。現在、「サンゴ礁保全プロジェクト」では沖縄のほか、セーシェルとオーストラリアのグレートバリアリーフでも、それぞれ異なるテーマを掲げて調査を行っている。「MC FOREST スクール」で毎年サンゴに関する教室が開催されているのも、未来を担う子どもたちに少しでもサンゴを身近に感じてもらいたいためだ。

サンゴ礁を守るために

初めて覗く大きな電子顕微鏡

2時間の教室はあっという間。「サンゴの不思議」に参加した小学3年生の男の子は、「こんな大きい顕微鏡を覗いたのは初めて。サンゴが餌を食べているところを見て、面白かった」と笑顔で帰途についた。

鈴木教授が授業の最後に、子どもたちに語りかけたのが印象的だ。

「サンゴはいろんな生きものにすみかを与えて、一緒に生きている。サンゴが死ぬと他の生きものもどんどん減って生きものが棲めない海になってしまう。ですからサンゴ礁を守るためにどんなことができるのか、みなさんおうちに帰ってちょっと考えてみてください」

 この言葉、子どもたちだけでなく、すべての大人にも向けられているのではないか。

(取材・構成/編集委員 上野真理子)

   

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