IHI社長兼CEO  満岡 次郎 氏

伝統気質を「変える元年!」 「朝礼暮改」で先手を打つ

2018年10月号 BUSINESS [リーダーに聞く!]

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満岡 次郎 氏

満岡 次郎 氏(Tsugio Mitsuoka)

IHI社長兼CEO

1954年神奈川県出身。80年東大院修士(舶用機械工学専攻)。石川島播磨重工業(現IHI)入社。86年~88年英国駐在。民間航空エンジンの設計・開発畑を歩む。10年執行役員、14年取締役・航空宇宙事業本部長、16年社長、17年4月より社長兼最高経営責任者(CEO)。

――社長就任から2年半が経ちました。

満岡 就任直後にプロジェクトの審査・遂行体制を全面的に見直し、リスク検証の前倒しやバックアッププランの作り込みによってリスクの潰し込みを徹底させたが、大型プロジェクトでトラブルが発生し、業績下振れを防げませんでした。

2年目は事業の選択と集中を加速し、計36あったビジネスユニット(BU)を25に集約し、4つの事業領域の傘下にまとめました。昨今、AIやIoTといったデジタル化が一層加速し、産業構造に大きな変化が起こっています。もはや昨日と同じままで走り続けられるわけがない。当社はBU単位で動く組織風土があり、こうしたタコツボ化を排除しなければ、時代の変化に適応できない。4つの事業領域のトップに明確な責任と権限を与え、BUを超えたスピーディーな集中と選択に力を注ぎました。

――しかし、前期も下振れが発生した。

満岡 ジャパンマリンユナイテッドの業績悪化に伴う、持分法投資損失(339億円)は痛かった。IHIの営業利益は年度計画(650億円)を上回る722億円を達成していただけに残念でした。

リーン&フレキシブル化を促進

――満岡さんの出身母体である「航空・宇宙・防衛」事業領域が、営業利益の8割以上(601億円)を稼いでいます。

満岡 7月に「英ファンボロー国際航空ショー」を見て来ました。世界から関連企業1千社が参加し、たいへんな賑わい。アジアを中心とする旅客需要の拡大により、今後20年で運航機が倍増するとの航空機需要予測もあるくらいです。

――主催者によると開催中の取引額は過去最高の約21兆円に達したそうです。

満岡 現在、関連企業はどこも繁忙を極めていますが、航空機ビジネスは湾岸戦争、9・11テロ、リーマン・ショックと、10年ごとにひどい目に遭ってきた。実際、サプライチェーンのどこにボトルネックがあるか分からず、その一つが欠けたら、世界中のエンジン製造がストップするリスクを抱えている。ダブルソース、トリプルソースの部品・部材の調達に腐心していますが、油断はできません。

――航空機エンジンの新工場建設を計画している県有地買収に当たり、売主の埼玉県から優先交渉権を獲得しました。

満岡 実現すれば20年前に完成した相馬事業所(福島県相馬市)以来の国内新工場になります。現在の航空機エンジンの組み立て拠点の瑞穂工場(東京都西多摩郡)から距離が近い鶴ヶ島市に広々とした工場用地(13 ha)を確保できたら、能力増強の相乗効果が生まれます。

――7月に米国で開催したIRミーティング。機関投資家の風向きは?

満岡 「信頼回復」の一丁目一番地は、大型プロジェクトの下振れ防止であり、懸念はほぼ出尽くしたと考えています。この間、ど真ん中の「収益基盤の強化」を図ってきたので、今期こそ連結業績予想(純利益320億円、前期比3.9倍)を変えずに、達成したいと思います。

――企業体質は変わりましたか?

満岡 「変わってきた」と褒めて下さる方もおられるが、私はまだまだ1~2合目の評価。今年度の全社重点施策のスローガンは「変える元年!」にしました。

――「変える元年」とは厳しいですね。

満岡 これまでIHIグループは同質な企業文化の中で仕事の進め方についても変えることが少なかった面があります。「部門を超えて、チームで、そしてコミュニケーションを徹底して、変化を恐れず、どんどん変えていって欲しい」と訴えてきましたが、細分化されたBUの殻が固く、経営資源の再配分が進まなかった。前期の事業領域レベルの活動に加えて、今期から私の直下にクロスファンクショナルチーム(CFT)を作り、部門をまたぐ100人以上の人材再配置も断行しました。事業戦略に沿って事業構造を変え収益性を高めるには、グループ全体のリーン&フレキシブル(筋肉質で柔軟)化を促進しなければなりません。

現場力を引き出す「千本ノック」

――1980年代に航空機エンジンの日米欧共同開発に加わり、とことん詰めるスタイルを身に付けたと伺いました。

満岡 私は少し厳しすぎると言われ続けてきました。現場に足を運び、皆さんと議論するのが大好きで、それぞれ最高のパフォーマンスを発揮して欲しいと思うから、つい止まらなくなってしまう。

――航空宇宙事業本部時代は「満岡千本ノック」と恐れられていました(笑)。

満岡 でも、このところは、ほぼほぼ怒ったことがないと思いますよ。しかし、今年は「変える元年!」だから、少しは弾けたほうがいいのかもしれません(笑)。やるべきことをやらずして目標の達成はありませんから、現場の底力を引き出す千本ノックの雨を降らせることもある。振り返って、私は社内外の先達にうまく育てて頂いたと感謝しています。入社時、窓側に座っておられた伊藤さん(源嗣元会長=現名誉顧問、82)から、3秒以内に電話を取れと怒鳴られました。当時、伊藤さんは「Ⅴ2500エンジン」の主担当部長。とにかく怖かった。

――伊藤さんから薫陶を受けた?

満岡 薫陶ではありません。1万本ノック、いや10万本ノックの雨(笑)。それから、日米欧の共同開発で培った、航空機エンジン市場を握る米ゼネラル・エレクトリックなど海外3大エンジンメーカーの人脈も、私を育ててくれました。ある時、3大メーカーの某幹部から「満岡は3大メーカーのことを何でもよく知っている。うちのよくないところを教えて欲しい」と頼まれたことがあります。

――座右の銘は「朝礼暮改」だとか?

満岡 3年とか5年の技術開発計画を持ってきたら、半年で結果を出せと突き返します。幕末以来165年の歴史を持つ当社にはチャンピオンとなる製品を作ろうとする伝統気質があり、60点の段階でネタを出し、ダウンセレクトするスピード感が足りません。変化の激しい時代には外に目を向け、自らの殻を破り、変わらなければ――。座右の銘とは申しませんが、朝令暮改を恐れていたら、先手を打てない。伝統気質を変える元年にします。(聞き手 本誌発行人 宮嶋巌)

   

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