「霧島火山帯に予兆」近畿・中部直下型が怖い

2018年10月号 LIFE
by 藤和彦(経済産業研究所上席研究員)

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「北海道内陸部への熱エネルギーの移送が活発だったことが原因である」――。 9月6日の北海道胆振東部地震(マグニチュード6.7、最大震度7)の発生をこのように解説するのは、プレートテクトニクス説(プレート説)に代わる地震発生メカニズム(熱移送説、本誌18年1月号を参照)を提唱する角田史雄埼玉大学名誉教授である。その後も余震が続いているが、地震学者たちは、想定していた千島海溝沿い(海底)ではなく直下型地震が発生したことに戸惑い、「プレート説で説明ができない」とこぼす向きもある。

角田氏が提唱する熱移送説で主役を務めるのは地球の地核から表層に運ばれ、表層を移動する先々で火山や地震を起こす「熱エネルギー」である。日本に関連する熱エネルギーの出口は南太平洋にあり、そこからインドネシア・フィリピン南部を経由して①台湾から九州に到達するルートと②マリアナ諸島から首都圏に到達するルートに分岐するという。

今回の地震について角田氏は「北海道は2つのルートで移送される熱エネルギーが合流する地域の一つであり、最近の十勝岳(北海道中部)の活動の活発化から移送される熱エネルギーの量が増大していたのだろう」と指摘する。しかし火山活動の活発化は十勝岳にとどまらない。今年8月の気象庁の発表によれば、十勝岳の他にも、屋久島西方に位置する口永良部島、九州南部の桜島や霧島山、本州中部の浅間山や草津白根山、小笠原諸島の西之島と、日本各地で火山活動が活発化している。

「日本の地下が高温化しているため、至るところで火山活動が活発化している」と主張する角田氏は、「現時点では『台湾から九州に到達するルート』の方が『マリアナ諸島から首都圏に到達するルート』よりも熱エネルギーの移送が活発である」と考えている。その証左として挙げているのは霧島火山帯(九州中部の阿蘇山を北端として南西諸島に至る火山群)の活動の活発化である。気象庁が8月15日「口永良部島(屋久島町)の噴火の可能性が高まった」として口永良部島の警戒レベルを2から4に引き上げ、現在はレベル3だが、九州南部の霧島や桜島でも6月以降爆発的な噴火が起きている。

熱移送説によれば、火山活動が盛んになれば大きな地震も多数発生する。今年に入り6月に大阪府北部を震源とするマグニチュード6・1(最大震度6弱)の直下型大地震が発生したが、九州北部や山陽・山陰地方、千葉県から三陸沖にかけても地震が多発している。

角田氏は大阪府北部地震について「台湾から九州に到達した熱エネルギーが16年に熊本地震を発生させた後、山陽・山陰地方を経由して大阪府北部に到達した」と解説した上で、「大阪に到達した熱エネルギーはさらに日本海側に移動することから①滋賀県から福井県の間(近畿地方)や②長野県から石川県の間(中部地方)などで直下型地震が起きるのではないか」と警告を発する。首都圏への熱エネルギーの移送も続いていることから、本誌1月号で紹介した伊豆半島で直下型地震が発生する可能性も残っている。

豪雨災害に加え地震に対する備えもこれまで以上に万全にする必要があろう。

著者プロフィール
藤和彦

藤和彦

経済産業研究所上席研究員

1960年生まれ。早大法卒。経産省入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。『石油を読む(第3版)』など著書多数。

   

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