2018年7月号 BUSINESS
6月28日の株主総会でTBS社長を退き、会長に就く武田信二氏(65)が「院政」批判に晒されている。4月の終わりに、突如、在位わずか3年で退陣を表明。「現経営体制を刷新し、若返りを図る。世代交代を加速させる」とカッコよく宣言したが、「やっていることが真逆」(局関係者)との酷評も。
5月11日、TBSが発表した2018年3月期決算は売上高3619億円、営業利益188億円の増収、減益だった。そこで疑問がわくのは、昨年11月1日の業績予想の上方修正。TBSはスポット広告の収入増により、営業利益が200億円から220億円に増えると発表し、株価が高騰した。ところが、そのわずか3カ月後(2月8日)の第3四半期決算発表で「第3四半期に入りスポット広告が伸び悩んでいる」とし、営業利益が220億円から190億円に大幅に減ると、業績予想を下方修正。もちろん株価は急落した。
「わずか数カ月間にスポット広告が数十億円落ち込むなんて常識的にあり得ない」(キー局の役員)。その謎ときは、前月号で報じた〈「CM過剰受注」でペナルティ、武田TBS社長退陣の暗部〉をご覧いただきたいが、事の始まりは、武田社長が「ライバルのフジテレビを抜くためなら手段を選ばずどんどんやれと、現場にハッパをかけたのが問題」(局関係者)だった。
結果は3月に入って、営業担当役員が「売り上げの最大化を目指し、注文をかき集めたが、自らのCM枠の把握、作案のスピードが遅く、セールス全体の統括が不能に陥り、注文を返却・減額したため、12月以降大幅な減収となった」と、社内の会議で詫びる有り様。前代未聞の大失態を演じ、会計ルールを逸脱する運営を行った関係者が処分されると思いきや、武田社長は「こうした事は時折起きている」「賞罰には馴染まない」と、責任論にフタをした。東証筋には「CMの過剰受注は8月に始まり、溢れた広告を翌月に回せば、年末に破綻するのは自明だった。昨年11月の上方修正は問題だった」との指摘もある。
さらにTBS社員を驚かせたのは、「若返り」を訴える武田社長が、グループ再編の核となる「番組制作」新会社と「映像・文化」新会社の会長として陣頭指揮を執ると発表したことだ。「両新会社に子会社の一部を集約し、TBSテレビと並ぶグループの中枢として、コンテンツの充実を図り、総合メディアの多角化に挑戦する」というのだ。内情を知る幹部は「二つの新会社の会長職は、誰の了解もなく、武田社長一人で決めた。新会社の社長に内定した阿部龍二郎と園田憲は制作局出身で経営には無縁。イエスマンであることが社長抜擢の条件なのは見え見えではないか。TBSビジョンなどの関連会社はすぐに消える」と、不満をぶちまける。
5月30日、最後の社長会見に臨んだ武田氏は「番組制作会社と、イベント等を含めた文化・映像事業会社を数百人から千人ぐらいの規模で作る。私が両社の会長を担当し、1、2年で早急に整備したい」と意気軒高、文字通り「院政」宣言だった。 思わぬ院政支配で社員は意気消沈、社内の空気は重く、暗い。一連の動きはいずれも株主を無視した、経営の私物化に他ならない。若返りを訴えた社長が院政宣言とは。世の中をバカにするにもほどがある。