サントリーホールディングス社長 新浪 剛史

「ものづくり」バリューでさらなる「グローバル化」

2018年7月号 BUSINESS [リーダーに聞く!]

  • はてなブックマークに追加
新浪 剛史 氏

新浪 剛史 氏(Takesi Niinami)

サントリーホールディングス社長

1959年横浜市生まれ。三菱商事入社。米ハーバード大でMBA取得。2002年(当時43歳)ローソン社長、14年8月サントリーホールディングスに移り、同年10月より現職。政府経済財政諮問会議の民間議員、経団連の審議員会副議長を務める財界屈指の論客である。

――人気の高い「響17年」と「白州12年」の販売休止を決めました。

新浪 当社が「角ハイボール」に力を入れ始めた08年以降、国内ウイスキー販売は2倍以上になり、原酒の量が足りなくなってしまいました。誠に申し訳ありませんが、しばらくお届けできません。

――かなり長く店頭から消える?

新浪 「17年」「12年」と銘打つからには、それ以上の酒齢がなければ。当社の「ものづくり」に妥協はあり得ません。

――山崎や角瓶が軸になりますか。

新浪 実は山崎も厳しい。うちの役員には響、白州、山崎を飲むことを禁じています。過去10年に世界ウイスキー市場は6割増えました。背景にはミレニアル世代(20~30代)の支持がある。ホワイトスピリッツと異なるウイスキーの豊かな香りと深い味わい、樽の中で「変化(へんげ)」するコク、うまみ、色合いに、ワイン的な面白さを感ずる人が増えています。もし、4年前に1兆6千億円を投じて、世界№1のバーボン「ジムビーム」のつくり手を買収していなかったら、当社のウイスキーは底をついていました。

会長室で「どうでしょうか」は禁句

――月に2回は子会社になった「ビームサントリー」に出かけるそうですね。

新浪 米シカゴ本社だけでなく製造現場を見て回り、夜はバーでジムビームやメーカーズマークが、どんな飲まれ方をしているのか、この目で見てきます。昨年は地球25周分の海外出張をしました。

ビーム社は200年以上の歴史を持ち、英ディアジオ、仏ペルノ・リカールに次ぐ世界3位の蒸留酒メーカー。その本社には高学歴な人材が揃い、どちらかというと「上から目線」で製造現場と距離があり、販売も「卸」任せでした。その傘下に「響」や「山崎」を製造販売する国内の蒸留酒会社を入れましたが、我々より世界で広く販売している彼らはプライドが高く、考え方もやり方も大きく違っていたから、当初は青ざめました。

――高いプレミアムを払った買収先が言うことを聞かないパターンですね。

新浪 買収先の取締役会でものを言うだけではダメです。親会社のトップが、現場に足を運び、生の情報に接して、買収先の経営陣にガバナンスを任せ切りにしないことがポイントです。

――言うは易しですが、買収先にうるさくものを言う「憎まれ役」ですね。新浪さんは、ビーム買収直後に、佐治さん(信忠会長)から社長を任されました。

新浪 佐治会長が大きな買収を決断し、実行面は私の役割でした。

――ビームとの統合を任された?

新浪 はい。買収当時の借金は約2兆円。今は1兆4千億円まで減り、巡航速度で飛べるようになりましたが、就任直後は販路統合や生産・調達両面での連携を急ぎ、統合効果を出そうと焦りました。

統合を任されたと言っても、佐治会長とは毎週1時間~1時間半は相談します。会長室で「どうでしょうか」は禁句です。「こうします。お任せください」と言わなければ――。「こういう考え方もある」「用心しないと躓くぞ」と指南を受け、時間を忘れて議論することもありますが、「A案とB案のどちらにしますか」では落第。「あんた、社長やろ!」と一喝されます。そして、何よりスピード第一。「プランだけ考えてやらんのが、一番アカン!」と。

エポックメーキングな「ROKU」

――統合が進んだきっかけは?

新浪 買収の翌年から「サントリー大学」と呼ぶ人材育成プログラムを強化し、お台場オフィス別館に「ファウンディング・スピリッツ・ホール」を開設し、海外からビームをはじめとするグループ企業の社員を招き、当社の経営理念や流儀を体験しながら学んでもらうことにしました。

当社のマスターブレンダーでもある鳥井信吾副会長が理事長、私が学長を務め、鳥井信宏副社長が、創業者・鳥井信治郎氏の創業精神を教えます。カリキュラムは座学ではなく英語での討論が中心。3日から1週間泊まり込みます。途中で蒸留所を見学したり、夜は飲み会やカラオケでワイガヤ、すっかり打ち解けます。

さらに、大阪にある山崎蒸溜所の生産部門の社員が、バーボンを学ぼうとビームのケンタッキー州の蒸留所を訪れ、相互交流が始まったことが大きかった。最近、人気が高いジムビームは、サントリーの技術者とケンタッキーの技術者が協働して、よりまろやかな味わいに改良した成果です。サントリーは、単にボトルを売るマーケティングの会社に非ず。品質第一のもの作りの会社であることが、彼らにも分かってきたのです。

そして、昨年7月に発売した桜や煎茶など6種類の「和」の素材を用いた高級ジン「ROKU(ロク)」の共同開発がエポックメーキングでした。15年秋にビームサントリーの欧米の担当者と連携チームを結成し、開発。世界的なブームの追い風に乗り、ジャパニーズクラフトジンと銘打った「ROKU」(700㎖、4千円)は、初年度に国内外で予想を上回る2万ケースを売り、人気商品になりました。和の高級ジンが売れるかと、恐る恐る出したんですが大成功。「イースト・ミーツ・ウエスト」の高級ジンは、英ディアジオや仏ペルノに真似のできない挑戦。「やってみなはれ」とは、人のやれないことに挑戦して、やり抜けという教えですから、嬉しかったですね。この共同開発のお陰で、統合は一気に6合目ぐらいまで進んだと思います。

――サントリーに骨を埋めますか?

新浪 その覚悟です。先代の佐治(敬三)氏はビール市場に飛び込み、46年目に黒字化を果たした。当代の佐治会長は「世界のサントリー」へ飛躍するためビームを買った。当社のグローバル化は緒に就いたばかり。異なるものを受け入れ昇華するには時間がかかる。この流れを止めずに前に進めること。会長と私の思いは同じです。「ものづくり」のバリューを高めながら、さらなる「グローバル化」に挑めば、もっともっと発展できます。

(聞き手 本誌発行人 宮嶋巌)

   

  • はてなブックマークに追加