吉野 巌 マイクロ波化学代表取締役社長CEO

化学と電機の「融合」実現する

2018年7月号 BUSINESS [ヴィジョナリーに聞く!]

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吉野  巌氏

吉野 巌氏(よしの いわお)

マイクロ波化学代表取締役社長CEO

1967年生まれ、50歳。90年慶大法を卒業し三井物産に入社。2000年に退社し、カリフォルニア大バークレー校で経営学修士課程を修了。ベンチャー支援事業を経験し、07年マイクロ波化学を設立。

――電子レンジでおなじみのマイクロ波で、ものづくりを革命的に変えようとしています。

吉野 化学産業は1800年代後半に興ってから、造り方はずっと同じです。物質を入れた反応器に外から熱を加え、全体の温度と圧力を高め、化学反応を起こさせ、石油製品や薬や樹脂を造ってきました。マイクロ波は反応器内の物質に直接エネルギーを加えられます。吸収特性が物質によって異なることを利用すれば反応を促す触媒に選択的にエネルギーを加えられ、省エネ・高効率でものづくりができます。すごく大きな化学工場を小型化でき、現在の方法では造れないものを造れます。

――マイクロ波はなぜこれまで使われなかったのでしょう。

吉野 化学工業へのマイクロ波の応用は1980年代、論文が数多く発表され、化学メーカーの9割は挑戦したそうです。でも装置の大型化が難しく、「産業化できない」と判断されました。従来の技術では、マイクロ波は減衰したり反射したりし、大型化すると物質にうまく届かないのです。我々は縦が基本だった反応器を横にしたり、内部構造を工夫したりしてブレークスルーに成功しました。

――会社を興そうと思ったきっかけは何ですか。

吉野 三井物産で化学品を担当していました。その後、米国のビジネススクールに行き、現地でエネルギーや環境ビジネスのベンチャーの資金調達やマーケティングを手伝う仕事をし、自分でもエネルギーや環境に関連する会社を創業したいとシーズを探しました。石油価格の高騰を見て、バイオ燃料の会社を作り、マイクロ波で触媒効果を高める取り組みを始めました。

――装置産業である化学工業に挑むのは大変だったのでは。

吉野 会社を立ち上げた翌年にリーマン・ショックが起き、ベンチャー資金は当てにできず、600万円出し合ったり、助成金をいただいたりして開発を進めました。技術を売り込もうとしても、実績がないのでどこも導入してくれません。大型化に成功し、特許を出す中でベンチャーキャピタルが出資してくれたので、大阪に量産が可能であると実証する工場を建てました。すると、世界最大手のBASFや、食品添加物大手の太陽化学と提携できました。ほかにも「従来の方法だとできないんだけどマイクロ波化学で解決できないか」などのご相談があり、20ぐらいの案件が走っています。

――将来目指す方向は。

吉野 マイクロ波はエネルギーの伝達手段として、極めて汎用性の高い、ものづくりの技術になると考えています。これで日本が得意だった電機産業と化学産業を融合させた新しい産業を立ち上げたいと思います。

(聞き手/本誌編集人 宮﨑知己)

   

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