編集後記「風蕭蕭」

2018年7月号 連載
by 知

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公文書の管理のあり方について語る福田康夫元首相

「ああいう不起訴でお咎めなしになってしまうと、あの(森友学園公文書改竄)事件で自ら命を絶った人のことはいったいどうなるのか。ずいぶんギャップがありますよね。その辺のギャップをメディアの人はもっと報道してほしい」

(福田康夫元首相、6月1日、日本記者クラブの記者会見で)

中国の古典『春秋左氏伝』のお話。太公望を始祖とする斉の国で、総理大臣である崔杼が主君を殺した。国の記録を掌る役人である太史は「崔杼が君を弑(しい)した」と簡に書いた。「弑した」とは臣下による主君殺しを意味する。目下の者を殺した場合は「誅(ちゆう)した」となる。

怒った崔杼は太史を殺す。太史の後を継いだ太史の弟はやはり「弑した」と書き、兄と同様に殺された。しかし、職を継いださらにその弟がまた「弑した」と書くに至り、崔杼は記録を掌る者の使命を悟り、殺さず許した。

斉の南の町で記録を掌る仕事をしていた役人が、都で太史が次々と殺されていると聞き、ならば自分が正しく書き記そうと都を目指したが、途中、弟の弟が事実の通りに「弑した」と書くことができたと知り、引き返した。

「森友問題」を巡る財務省理財局職員らによる大量の公文書改竄事件。検察は、理財局長らが何のためこれほどまでの改竄を行ったか、十分説明しないまま不起訴とした。福田氏に限らず、多くの人が圧倒的違和感を覚えた。大阪地検特捜部長の会見に集まった記者が悪質タックルをした日大アメフト部員の記者会見の数分の1しかいなかったことも驚きだった。

映画『ペンタゴン・ペーパーズ』の決め台詞は、「新聞記事は歴史書の最初の草稿である」だった。さすれば公文書は、書き記された時点で「すでに国の正史の一構成要素となる正原稿」。役人はこの正原稿で、正しい歴史を守ろうと、時には命まで賭すのだが。

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