ビルのフロア売り「ボルテックス」の死角

2018年5月号 BUSINESS

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3月8日付の日経新聞に掲載されたボルテックスの全面広告

新興の不動産会社ボルテックス(東京・千代田区)が急成長している。2017年3月期の売上は669億9100万円で、経常利益は111億4100万円に達した。前年は425億2100万円、その前年は266億700万円の売上だ。1999年の設立から13年までは売上50億円にも満たなかったため、ここ数年の急成長に驚きの声が上がる。

拡大要因は、区分所有オフィスビルという新しい不動産投資市場を開拓したことにある。同社の手法は、1棟20億~100億円の都心の中堅オフィスビルを購入し、リフォームで価値を上げて転売。その際、ビルをフロアごとに商品化、バラ売りするというもの。売り先は不動産会社やファンドではなく、主に中小企業のオーナー経営者だ。

都心のオフィスビルはテナント需要が底堅く、安定した家賃収入が期待できるが、1棟買えるほどの資産家は限られる。それが階層ごとの区分所有にすれば数億円まで下がり、個人投資家でも買いやすくなるのだ。

聞けば単純な仕組みだが、小さなビルを1棟買うより、広めのビルを区分で所有したほうが高い資産価値が期待できるのは事実。都内のある不動産コンサルティング会社代表は「思いつきそうで誰も思いつかなかったアイデア」と感心する。分譲マンションでわかる通り、区分所有は面倒も多い。そのため同社は、物件ごとに管理組合を組成すると自らが理事長に就き、運営の主導権を手放さないことで、このコロンブスの卵のようなビジネスを軌道に乗せたという。

創業者の宮沢文彦氏はユニバーサル証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)入社後、レーサム・リサーチ(現レーサム)で不動産営業の経験を積み、99年に同社を設立した。日頃から「大企業のトップ」という夢を公言し、今年日経新聞に掲載した全面広告では竹中平蔵氏と対談。同社はトーマツにかわり新日本監査法人を監査に迎え、上場を目指している。

しかし、好調にみえる同社の先行きを危惧する声もある。「売上のほとんどを区分オフィスの売買で稼ぐ一本足打法。購入者の多くは銀行からの借り入れで資金を調達しているから、金融緩和が終われば影響は避けられないだろう」(不動産に詳しい経営者)

ある投資顧問会社代表は「千代田、中央、港、新宿、渋谷の都心5区で成り立っているビジネスだ。実際、大阪や福岡で購入した物件では苦戦していると聞いた。もう拡大期は終わったのではないか」と話す。この見立てを「今期(18年3月決算)の売上は前年比微減では」というアナリストの声も裏付ける。

一方、ビルに入居するテナント企業からは、家賃の増額交渉が不評だ。リフォームでの設備増強など理由あっての交渉ではあるが、中には「3割以上も家賃をつり上げられた」と話すテナントもいる。不満の矛先はビルを紹介したオフィス仲介会社にも向けられ、ある仲介会社は「もうボルテックスにはテナントを紹介しない」と怒り心頭だ。

だが、来年とも噂される上場までは歩みは止められない。最近になって同社は、500万円から購入できる不動産小口化を始めるなど、新たな稼ぎ口探しに躍起だ。果たして、2個目のコロンブスの卵は見つかるのだろうか。

   

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