編集後記「風蕭蕭」

2018年2月号 連載
by 知

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岩波書店の平木靖成さん

「年齢も性別も人種も何も関係なく、対等な人間関係が築けるのが一番良いなと思っていまして、

そのためにはちょっとした言葉の言い間違い、言葉尻を捉えて『ああ間違っているじゃん、まったくダメな奴だ』と思うよりも、『そういう言葉もあるのかもしれないね。面白いね、ハハハ』と言い合いながら、自由にコミュニケーションできると良いなと……」(平木靖成・岩波書店『広辞苑』担当・2017年12月18日、日本記者クラブの会見)

最も人気のある「国語プラス百科」辞典の担当。仕事ぶりはスパコンみたいに緻密なのだろうけど、目指すところは実に伸び伸びしていてホッとした。

1月発売の「第7版」は、動詞や形容詞を中心に類義語の書き分けを詳細にしたり、『万葉集』や『源氏物語』など古典から引用した用例を総点検したりするなど、大掛かりな改訂に。逆に心に伸びやかさがないとそもそも辞典づくりなんかに取り掛かれないのかも、とも考えた。

さて、7~14年で実施される『広辞苑』の改訂で毎回注目されるのは、どんな言葉が新たに収集されたかだが、今回の記者会見では、記者から「次の改訂はあるのか」という、少しドキッとする質問が飛び出した。

紙本位の辞書・辞典はネットに席巻されて時代遅れになるという前提の質問だろう。でも、ネットの用語説明は冗長になりやすく、それを読みふける分にはよいが、創作活動にはまったく不向き。そっけなく一言で表される『広辞苑』はどれほど便利なことか。

平木さんは「そのときの経営判断だ」と答えていたが、岩波書店よ、それでは困る。人工知能が小説を書き、ヒトとヒトの会話、コミュニケーションが、すべて人工知能と人工知能に置き換わる時代になっていたらあきらめるけど。

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