「チケキャン」家宅捜索!ミクシィお仲間買収で墓穴

チケット転売子会社「フンザ」摘発で77億円の特損計上。裁かれる「濡れ手で粟」のネットダフ屋。

2018年2月号 BUSINESS

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年の瀬の12月27日、インターネット業界に衝撃が走った。チケット2次流通(転売)サイト「チケットキャンプ」(通称「チケキャン」)の運営会社であるフンザに12月初め、兵庫県警が家宅捜索(商標法及び不正競争防止法違反容疑)に入り、続く同月26日には京都府警が強制捜査(電子計算機使用詐欺容疑)を行ったからだ。翌27日、フンザは18年5月末のチケキャン閉鎖と、創業社長らの辞任を発表した。さらに、フンザが大口転売業者の手数料をゼロにして優遇していたとも報じられ、利用規約違反を行っていた業者との癒着が明るみに出そうだ。

フンザはマザーズ上場のミクシィの子会社であり、300万人もの会員を抱えるチケキャンは、チケット転売サイト市場で7割を占める業界最大手である。

親会社のミクシィは97年に東大在学中だった笠原健治(42、現・取締役会長)が起業し、SNSの草分けとして一世を風靡。主力のスマホ向けゲーム「モンスターストライク」(略称「モンスト」)が大ヒット。全世界で利用者が4千万人を超えるネット・ベンチャーの雄である。業界筋で「マイルドで落ち着いた社風」と評されるミクシィに、一体、何が起きたのか。

吊り上がった「買収金額」

実はミクシィが、チケット転売ベンチャーのフンザを115億円で買収したのは2年前の15年3月。フンザの創業は、その2年前の13年3月であり、14年12月当時のチケット流通総額は約8億円だった。

創業わずか2年(従業員15名)のフンザに115億円を投ずるのは、いかにも「高値摑み」だが、ミクシィの森田仁基社長(41)は買収当時、チケットのフリーマーケット市場で3年以内に50%以上のマーケットシェアを目指し、5年後には35~40億円の営業利益を稼ぐと豪語していた。森田社長の強気が高額に繋がったが、関係者は「森田社長とフンザの笹森社長は以前から親しく、個人的関係がもたらした買収案件だった」と打ち明ける。実はフンザの取締役で株式を保有する生田将司も元ミクシィ取締役であり、文字通り内輪で固めた買収劇だった。

当時はメルカリなどのスマホのフリーマーケットアプリが急成長し、注目を集めていた。ちなみにメルカリの小泉文明社長(37)も元ミクシィ取締役だ。チケキャンは「ネットダフ屋」のイメージがあったが、トップ同士の親密さが後押しして高額買収に踏み切ったのだろう。

別の関係者は、「社長が森田さんに代わって『朝倉時代』が否定され、新たな軸が必要な時期だった」と語る。朝倉とは、前社長の朝倉祐介(35)のこと。朝倉は競馬騎手の候補生から大検合格、東大法学部を経てマッキンゼーに入社。その後、自ら経営するベンチャーがミクシィに買収されたため、ミクシィに入社。13年、当時SNSのミクシィのユーザー数が減少する中、創業者の笠原に「再生」を託されて、買収された会社の社長から30歳でミクシィ社長へ転じた。現会長で創業者の笠原は、社員から「いい人だが、上場企業の経営者の器ではない」(社員)と評される人物である。

当時のミクシィは「モンスト」が成長途上にあり、SNS一本槍で来たマイルドな社風の中、次の柱となる新事業を模索していた。社長に就任した朝倉は経営改革を断行し、新たな事業の芽がない中、コストカットや他社との資本提携などを急いだが、社内の反発を招いた。その1年後、朝倉は「再生の道筋をつけた」として社長を辞任。ネットビレッジ(現fonfun)出身の森田が社長を引き継ぐことになった。そこからモンストの急成長とミクシィ株価の躍進が始まり、勢いに乗った森田社長の下でフンザは買収されることとなった。

関係者によれば、フンザの買収交渉では、14年夏の想定買収金額の数十億円が15年3月には100億円以上に吊り上がり、買収に反対した関係者は案件から遠ざけられていったという。ミクシィ側で買収を担当したのは入社間もない寺谷祐樹であり、その後、寺谷はフンザの取締役に就任している。

企業倫理を逸脱した報い

関係者は「あの頃、ミクシィ社内の組織が大きく変わった時期であり、経営陣はフンザのコンプライアンス上の問題をしっかり検討していなかったのではないか」と指摘する。フンザの買収にはデューデリジェンス(買収監査)費用として5200万円が計上されたが、法的リスクが高いという理由で懇意にしていた外資系コンサルがアドバイザーを断り、別の外資系金融機関が手掛けたという。

ちなみに115億円で買われたフンザの株式保有比率は、前社長の笹森良58.1%、生田将司(元ミクシィ取締役)25.3%、前取締役の酒徳千尋16.6%だった(笹森と酒徳は12月27日付で引責辞任)。

楽天などを経てフンザを起業した笹森は経済誌に「すでに子供もいたので、絶対に失敗は許されない状況(での起業)だった」と語ったことがある。創業から2年で60億円ものキャピタルゲインを手にした時は笑いが止まらなかったはずだ。こうした仲間内ばかりで買収が行われ、フンザは利用規約に転売する目的で入手したチケットの出品を禁じると謳いながら、実質的にはネットダフ屋として急成長し、同サービスは16年12月には登録会員数300万人、月次流通総額約58億円と発表していた。

フンザに対する捜査のメスは、商標法違反と不正競争防止法違反に加え、転売目的でチケットを購入した電子計算機使用詐欺の疑いによるものであり、商標権の侵害は10年以下の懲役もしくは1千万円以下の罰金が科される可能性がある。

コンサートなどのチケットの高額転売はかねて問題視されており、行けなくなったチケットの2次流通の必要性はあるものの、チケットが高額転売されてもアーティストに還元されることはなく、経済的余裕のないファンの購入を妨げていると指摘されてきた。

ミクシィはグレーなサービスを買収後もグレーなまま成長させ、遂に企業倫理を逸脱し、墓穴を掘った。自ら大口転売者を優遇するという不正を働いた疑いまで持たれている。仲間内の会社売却でお仲間は巨額のカネを手にしたが、買収したミクシィは77億円もの特別損失を出すハメになった。仲間内だけを儲けさせ、儲かれば何でもありと不正に手を染める。「濡れ手で粟」のネットダフ屋が裁かれる時が来た。(敬称略)

   

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