2018年1月号
連載
by 知
早稲田ジャーナリズム大賞の文化貢献部門で大賞を受賞した林典子氏
「激しい現場ももちろんあることはあったのですが、そういうことではなくて、彼ら一人ひとりの存在、一人ひとりが大事にしていた土地とか物とか、思い出の写真とかを記録して、彼らの存在を伝えたいというふうに思いました」(フォトジャーナリストの林典子氏・11月30日、石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞の贈呈式)
自分はいま、何を伝えないといけない存在なのか、常に自問自答している人、それが優れたジャーナリストである。
林氏は2014年8月、ISがイラク北部にあるヤズディの村を攻撃したことを、「たまたま近くの」トルコで別の取材をしていて現地の報道で知った。それをきっかけに、ヤズディの人たち15人が雑魚寝で避難生活を送る民家に泊まり込んだりしながら2年間取材を続け、写真集『ヤズディの祈り』(赤々舎)にまとめた。
イラクには当時、世界中のメディアが押しかけ、戦闘と混乱を取材していた。ヤズディの人たちも自分たちで映像を撮って、YouTubeやSNSで情報発信していた。そこを林氏は、15人の戻ることのできない故郷の家や、ヨーロッパへ難民として流れて行くときに肌身離さず持っていった、時計や人形など、個人が大切にしてきた物を撮り、世界に訴えかけた。
いま課せられている自分の使命はなんだ、何をどう撮れば世界中の人々に伝わるのか、そういったことを考え抜く、強い精神力を持っているのだろう。
受賞の挨拶で林氏は日本人フォトジャーナリストの少なさを憂え、自身についても「これからどうなるかわからないですが」と不安を口に。すぐ「賞を励みにこれからも取材活動を続けたい」とつないで場を安心させたが、編集の職にある者として、こうした才能が思い通りに作品を著せる環境を作らねばならないと思った。