管財人が入り資産をあらためれば千葉の土地の投資話は白黒決着する。ハチの一刺しは「洗脳投資集団」を壊滅できるか。
2018年1月号 DEEP [利用された中高年女性]
飯田氏らは、Shunkaの配当停止直前にRegolithという会社を立ち上げ、Hana倶楽部とよく似た「RAINBOW倶楽部」を開催。『なないろ通信』はその会員誌
「債権者破産を申し立てます」。2017年11月7日、東京地方裁判所を大阪市在住の弁護士が訪れた。弁護士が申立書の添付書類として手にしていたのは、多くの中高年女性から投資と称してお金を集めたものの、そのほとんどを返済せず、全国各地で問題となっている「Hana倶楽部」の運営会社「Shunka」と、同社と本店の所在が同じ「ロゼッタホールディングス」のカネ集めに関する資料だった。
地裁に提出された資料によると、依頼人である大阪市在住の女性は、Shunkaとロゼッタ社による投資金未返還問題の「被害者」の一人。投資金とは別に、ロゼッタ社に対し12年~16年にかけて、事業資金を総額3926万円貸し付けていたが、返済される様子がないので債権者として破産を申し立てたという。ロゼッタ社はShunkaの元会長の飯田正己氏がかつて代表取締役を務め、その後も取締役で残っている会社で、両社は密接な関係にある。
大阪市の女性による債権者破産申立書
「債権者破産」とは債権者が裁判所に対し債務者を破産させるよう求める制度。女性はなぜロゼッタ社の破産を求めたのだろうか。そのいきさつを語るには、Shunkaとロゼッタ社が1年半前の騒動発生から投資金未返還問題の「被害者」にまったく向き合わず、ウヤムヤにしようとしている現状から説明しなければならない。
Shunkaは中高年の女性向けのイベント団体「Hana倶楽部」を運営。倶楽部の会員にゲーム機や水へ投資すれば見返りに1~3割もの配当を支払うと言って投資を勧誘し多額のお金を集めた。誘いに乗った会員約600人を「加盟店」に仕立て、さらに一般の人からお金を集めさせた。
一方、ロゼッタ社はShunkaの加盟店の仕組みのVIP版である「ロゼッタプレジデントクラブ」を運営し、Shunkaにお金をつぎ込んでいた中高年女性に、さらに社債や株式、土地への投資話を持ち掛け、これまた多額のお金を集めていた。両社が集めたお金の総額はある加盟店関係者の推計では300億円に及ぶ。
Shunkaは最初のうちは配当の支払いを実施していたが、16年5月末に急きょ停止。その後1年以上経ったいまも、元本を含め、お金の大半を返していない。その一方でShunka幹部は、Shunkaの配当停止の直前に、「Regolith」という別会社を立ち上げ、「こちらに投資したらShunkaに投じた元金が早く戻る」などと言い、投資者にさらにお金を振り込ませ、「被害」を拡大させている。
ロゼッタ社のほうも、投資対象となっているはずの社債や株式の現物を見せてもらったという人はおらず、配当も止まった状態。「登記代」まで取られたのでてっきり自分のものになっていると思っている土地についても、現地に案内してもらって、ここだと説明されたという人はいない。
このような状態が続く中、Shunkaとその後継のRegolithに投資していた、福岡県久留米市在住の80代の女性が自殺した、との情報が17年11月中旬に飛び込んできた。関係者の間では、女性はShunkaの言い分を信じて投資してきたが、配当がストップされると、うつの症状を発症したとされている。
Shunkaやロゼッタ社に投資した中高年女性らは個々に警察に告発したが、実はそうすることができない者も多かった。親類や友人に両社を紹介し、自分が2次、3次の投資被害者を生んでしまったケースも多いためだ。このため、中高年女性からお金を吸い上げた者たちはいまだに野放しで、その後も被害が拡大する一方だ。
今般、実行された債権者破産の申し立ては別名、「第三者破産」と呼ばれる。債務を抱えた会社が自分で破産を申し立てる自己破産に対し、会社側当事者でない者が申し出るためにこのように呼ばれる。破産は債務免除の手続きでもあるため、実行されれば債権額そのものを減じ、手元に戻ってくるお金は貸し付けた額よりかなり減る可能性がある。女性はそれでも、事業資金を貸しつけていたロゼッタ社に対し、破産の申し立てを起こしたことになる。
ロゼッタ社側は反論してくると考えられるが、破産手続開始が決定されれば、破産管財人がロゼッタ社を中心に、Shunkaなど関連会社の財務状況調査に入ることになる見通しだ。破産管財人はロゼッタ社に対し債権者への説明および財産開示義務を課せる。拒めば刑事罰の対象になる。
投資金が返ってこない「被害者」や今回の女性のように事業資金を貸し付けていた人にしてみれば、これまで投資金の返還に応じないばかりか財産状況も開示しないロゼッタ社やShunkaの財布を無理やり開かせるための、またとない機会になる。
思い返せばShunkaやロゼッタ社による「事件」の発端は、ロゼッタ社の飯田氏が、16年6月、突然、奇妙な文書を会員に送りつけたことに始まった。
《Shunka代表取締役の蓑輪繁明の事業計画のもと、20億円以上を融資していたが、度重なる返済遅延のため、本日を持(ママ)って、蓑輪を東京地裁(ママ)に告訴告発に及んだことを通知させていただく》
会長が社長を訴えるという仲間割れのような事態に会員は驚きを隠せなかったが、案の定、配当は16年5月下旬で止まったまま。元本も戻らずじまいとなった。
飯田氏らShunka幹部は16年6月以降、東京や名古屋など各地で会員への説明会を開いた。「必ず返済する」と口約束する一方で、飯田氏は「俺に歯向かうやつにはカネは返さない」とあたかも被害者を脅すような言動をとるなど、反省の色は一向に見えなかった。
飯田氏は、会社の謄本によると神戸市三宮駅近くの高層マンションを居宅とし、「加盟店」の人の話によると、東京では超高級ホテルを住まいとしていた。それなのに、返済の約束は周囲の懸念通り、実行されぬまま、今日に至っている。
多額のお金を集めるその手口は明快だ。「中高年の生きがいを演出する」などとして、ある程度裕福な中高年女性を主なターゲットにして、「Hana倶楽部」なるイベント団体を立ち上げ、女性会員がモデルウォークするファッションショーをホテル会場を使って大々的に行ったり、遊園地を借り切ったイベントを仕掛けたりする。
そして女性たちの気分が高揚したところで投資話を持ちかけるのだが、おいしい話にはウラがある。銀行預金の金利が限りなくゼロに近いご時勢で、配当が1~3割出るとの話に飛びついた人たちのもとには、投資対象商品は届かなかった。商品がまったくない投資が長く続くはずがない。新規の資金が入ればそれを「配当」として先に投資した人に与えることができるが、新規を獲得できなくなると終わりである。「投資」などと言いながら、Shunkaやロゼッタ社は資金運用や投資助言が可能な金融庁の登録業者でもなかった。
勧誘には、有名人やメディアも巧みに利用した。効果を発揮した舞台装置の一つは、Shunkaの関連会社が発行する雑誌「Brilliant」。会員に無料で配られる雑誌で、カラー表紙のグラビアに外国のセレブや有名俳優を載せるなど豪勢な見栄えが売りの季刊誌だった。
この雑誌のインタビュー記事には、あの安倍晋三首相の妻・昭恵氏が登場し、「私は総理大臣の一番近くにいる存在。皆さんの声を直接届けられる、国民の代表だと思っている」などと語るものだから、会員はすっかり騙されてしまった。複数の会員は「この記事でShunkaをすっかり信じ込んでしまった」と語る。昭恵氏はShunkaの正体を覆い隠す役割を果たしたことになる。この雑誌には、鳩山由紀夫元首相の妻・幸(みゆき)氏やファッションデザイナーの桂由美氏、ブリキのおもちゃコレクターで知られる北原照久氏も登場していた。
パーティーでは芸能人の名声を利用した。15年9月13日、浜松市のホテルで開かれた高額投資者向けイベントでは、女優の奈美悦子氏が挨拶。200人が詰め掛けた会場には、「ビートたけし」「マツコ・デラックス」「中森明菜」ら著名な芸能人の名前が入っているが、本当にこうした芸能人が関係しているか疑わしい花輪が飾られた。
16年1月8日には毎日新聞にShunkaの全面カラー広告が載り、紙面の隅っこにはHana倶楽部の会員を募るコールセンターの電話番号が記されていた。飯田氏はテレビも利用した。東京MXテレビの番組「ババカ~ン」に「中高年を元気にする会社社長」としてたびたび出演した。
そんな飯田氏の素顔がばれたのは、17年春のことだった。飯田氏の関わった二つの会社が過去に霞が関の官庁から違法な連鎖販売で処分を受けていたことが判明したのだ。1社目は2000年代に関西で活動した「サンヨーメガ」。飯田は「石橋凌匡」という名で同社の役員を務めていたが、07年、特定商取引法違反で経産省から6カ月の業務停止処分を受けた。
2社目は、これも関西で会員を広げた「Rida」だ。12年、今度は消費者庁からやはり特定商取引法違反で3カ月の業務停止処分を受けた。そんな飯田氏が3社目に立ち上げたのがShunka、4社目がRegolithだった。処分を受けると新しい会社に乗り換え、自身の名前まで変えてお金を集め続けたことになる。
ここまで書けばShunkaやロゼッタ社による勧誘の異常さは、中高年女性をその気にさせる壮大な仕掛けとともに明らかだ。しかし、飯田氏らが「お金を返す」と言っている間は、なかなか捜査当局も動きづらかった。
飯田氏側は千葉県多古町に土地があると説明するが詳細は不明だ
そんな16年暮れ、決定的ともいえる証拠が浮かんだ。Shunkaやロゼッタ社が会員らに投資させた商品は、ゲーム機などいわゆる「物」だけではなかった。「土地」も含まれていたのだ。
「成田 土地購入 申込書」。Shunkaは15年から16年にかけて、ゲーム機などに投資した加盟店を対象に「3年で2.5倍になる」を売り文句に、千葉県成田の土地を「購入」させた。1坪4万円で、最低購入価額は200万円だ。
土地が他の商品と違うのは、不動産として所有権を主張するには登記しなければならない点だ。このため、飯田氏らは土地代金とは別に各々数十万円の「土地登記料」も集めた。だが、土地を購入したはずの加盟店には土地の権利証も登記簿謄本も送られてこなかった。
不審に思ったある加盟店にShunka幹部はこう説明した。「土地の登記をすると一人ひとりが税金を取られる。土地購入代金や登記料に代えて、新しく設立するShunkaの関連会社の株を渡す。その株を数年後に買い取る」。ところが結局、この関連会社の株券も送られてこなかった。
本当に土地はあるのかと疑念は募った。加盟店の人たちによると、ロゼッタ社の元取締役でShunkaの代表取締役である蓑輪繁明氏はこの土地について16年4月、「千葉県に老人ホームをつくる計画がある。その建設のため、飯田氏の関連会社『飯田高津原高原開発』が成田市にすでに3万7千坪の土地を所有している」と説明。
また、飯田氏もこの土地の購入について加盟店の人たちに「シニアのニュータウンには女性専用マンションと男性専用マンションを作って楽しく一緒に暮らせる村を造る。土地を買ったほうがいい」と勧めたという。飯田氏が加盟店に示した別の書類には、この土地の場所は成田市ではなく、隣の「香取郡多古町高津原」(施設用地16万㎡)と書かれている。ただ、飯田高津原高原開発やShunka、あるいはロゼッタ社が本当に土地を所有しているかどうかはよくわからない。
そこで冒頭の「債権者破産」に話を戻す。破産手続開始が決定し破産管財人が入れば、ロゼッタ社および実質一体のShunkaは財産の開示義務を負う。財産状況調査で土地がないことがはっきりすれば、警察も飯田氏ら幹部の行為が詐欺行為に当たるか否か判断しやすくなる。仮にShunka側が「これから土地を購入しようとしていた」と言い訳しても、飯田氏が言うニュータウン計画を進める実態がなければ、詐欺の疑いは払拭できない。
自分が買ったと思っている土地の存在を確認するため16年に、わざわざ九州から現地にやって来た高齢の男性は、千葉県香取郡多古町の役場の人に「そのような計画は聞いたことがない」と断言されたという。ロゼッタ社はその後も当地でニュータウンや老人ホームづくりの手続きを進めている実態はない。破産管財人による資産の洗い出しで土地の不存在が確定すれば、「いよいよShunkaもロゼッタも崖っぷち」と関係者は言うのだ。