伊豆半島「直下型大地震」に備えよ

「熱エネルギーが北上し、18年前半に伊豆半島に到達する」と警告を発する学説に注目。

2018年1月号 LIFE
by 藤和彦(経済産業研究所上席研究員)

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「2018年前半に伊豆半島で直下型大地震が起きる可能性が高い」︱︱。こう警告を発するのは、プレートテクトニクス説(以下「プレート説)」に代わる地震発生メカニズム(熱移送説)を提唱する角田史雄埼玉大学名誉教授である。その主な根拠は西之島(東京の南約1千㎞に位置する)の大噴火である(国内の火山噴火では過去100年間で4番目の規模だった)。これにより西之島の面積は約12倍になり、「13年11月に西之島の噴火をもたらした大規模な熱エネルギーが18年前半に伊豆半島に到達し、マグニチュード6以上の大地震を引き起こすのではないか」と懸念する。

角田氏が提唱する熱移送説とは、いかなる学説か。

① 熱移送説の中で主役を務めるのは「プレートの移動」ではなく、「熱エネルギーの伝達」である。その大本の熱エネルギーは、地球の地核(特に外核)から高温の熱の通り道を通って地球の表層に運ばれ、表層を移動する先々で火山や地震の活動を起こすというものである。1986年に米国の学者がMRI(核磁気共鳴装置)の原理を応用した技術(マントルトモグラフィー)を用いて作成した「地球内部の温度分布図」を分析したところ、「地下3千㎞から太平洋の表面に向かって約6千度の熱エネルギーが上昇し、表層では太平洋の両岸に沿って移動している」ことがわかった。

② 熱エネルギーの表層での出口の一つは南太平洋(ニュージーランドからソロモン諸島にかけての海域)に存在する。南太平洋から出てきた熱エネルギーは西側に移動し、インドネシアに到達すると三つのルートに分かれて北上する。

南から順番に火山が噴火

三つのルートとは、▽SCルート=インドネシアのスマトラ島から中国につながるルート(08年5月に発生した中国の四川大地震や17年11月18日に発生したチベット自治区の地震が該当する)、▽PJルート=インドネシアからフィリピンに向かい台湾を経由して日本に流れるルート(台湾での地震や昨年4月の熊本地震等が該当する)、▽MJルート=フィリピンからマリアナ諸島へ向かい伊豆諸島を経由して伊豆方面と東北地方沿岸へ流れるルートである(図参照)。東日本大震災について角田氏は「PJルートとMJルートが合流する東北沖で巨大な熱エネルギーがたまり発生した」と考えている。

③ 火山の場合熱エネルギーが伝わると熱のたまり場が高温化し、岩石が溶けてマグマと火山ガスが生まれ、高まったガス圧のせいで噴火が起きる。地震の場合は地下の岩層が熱で膨張して割れることにより発生する。鉄をくっつけた溶接を力で剥がすのは大変だが熱すると簡単に剥がれやすいからである。

④ 火山の噴火と地震は同じ場所で発生する。熱エネルギーが通りやすくたまりやすい場所(高温化する場所や地盤の割れやすい場所)が、過去10億年間にわたりほとんど変わっていないからである。

⑤ 熱エネルギーは1年に約100㎞の速さで移動する。このためインドネシアやフィリピンで火山や地震が起きた場合、その何年後に日本で火山の噴火や地震が起きるかがある程度予測できる。火山の噴火から地震発生の予兆を捉えることも可能である。

以上が熱移送説の概略だが、伊豆半島の直下型地震が関係するのはMJルートである。Mはマリアナ諸島、Jは日本の小笠原~伊豆諸島を指すが、小笠原~伊豆諸島はほぼ直線で1千㎞超続く火山列島である。約40年間隔で大規模な熱エネルギーが北上しており、南から順番に火山が噴火するか、地震が発生している。

「論より証拠」しかない

13年11月の西之島の噴火以降、14年10月に伊豆諸島の八丈島(東京の南約287㎞に位置する)の東方沖でマグニチュード5.9の地震を発生するなど大規模な熱エネルギーは日本列島に向かって北上している。12年に発生した青ヶ島(東京の南約358㎞に位置する)の火山活動と13年に発生した箱根・大涌谷の小規模噴火の時期のずれが約20カ月であった(青ヶ島と箱根の間の直線距離は約320㎞)ことから、「日本近海での熱エネルギーの移送速度は1カ月当たり約16㎞だ」と角田氏は推定する。

伊豆半島周辺では1978年に伊豆大島近海地震(マグニチュード7.0、震源の深さは0㎞、死者・行方不明者26名)が起きている(73年に西之島が噴火している)。1930年にも北伊豆地震(マグニチュード7.3、震源の深さは不明、死者・行方不明者272名)が発生している。北伊豆地震は震度6の激しい揺れを伴い地震断層が掘削中のトンネルを塞いでしまうほどの大地震だった(丹那トントルにその傷跡が残っている)。震源に近い静岡県三島市で震度6を観測したほか、北は福島・新潟、西は大分まで揺れを感じた(地元では「伊豆大震災」と呼ばれている)。

熱移送説の元となる理論(熱機関説)は既に1960年代後半日本の地震学会で定説になりつつあったが、69年に米国からプレート説が発表されると日本の研究者はたちまちこの理論の虜になり、日本全体がプレート説一色となってしまった。日本の地震学界がいまだにプレート説に盲従する現状では熱移送説が日の目を見ることはないだろう。

政府のシンクタンクに身を置く筆者は、熱移送説を広く一般に紹介するため16年7月に角田氏と『次の「震度7」はどこか!』(PHP研究所)を上梓した。同書の中で角田氏は17年7月に発生した鳥取地震を予測していたが、最も強調したのが「今年後半から来年前半にかけて、伊豆・相模地域で大規模な直下型地震が発生する」ということだった。

大規模地震の発生を予測することで世の中を騒がせるつもりは毛頭ないが、熱移送説を広めるためには「論より証拠」しかない。「日本の学者が熱移送説を顧みる日が1日も早く来てほしい」という願いから、拙稿をしたためた次第である。

著者プロフィール
藤和彦

藤和彦

経済産業研究所上席研究員

1960年生まれ。早大法卒。経産省入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。『石油を読む(第3版)』など著書多数。

   

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