人手不足解消に挑戦ローソン「イノベーションラボ」

ローソンがAI、IoT、ロボティクスなど最新テクノロジーを導入する研究施設を開設。春には「深夜無人レジ化」の実証実験も。

2018年1月号 INFORMATION

  • はてなブックマークに追加

ラボの全景。手前はロボットの「ペッパー」

好景気の一方で、企業の人手不足が深刻だ。生産年齢人口は減少が止まらず、今後この状況が続く可能性も高い。

どこも人手確保に懸命だが、最も危機感を募らせる業界の一つがコンビニ業界だろう。全国でコンビニの数は5万5千店以上。深夜営業に加え、公共料金支払い、宅配、チケット購入など、もはや生活に欠かせないさまざまな機能を担うためにスタッフの業務が多岐にわたる。各社とも海外からの留学生などを含め人材育成に努めているが、それだけでは根本的な解決にはならない。複雑な業務をより効率化し、スタッフの負担を減らすことが、喫緊の課題となっている。

そんな中、コンビニ大手の一角、ローソンが次世代型コンビニの研究施設を開設した。研究の目的は、まさに焦点の「効率化」「生産性向上」にある。

システムが運営、人はサポート

ミニロボットの「Sota」は接客で質問に答えるだけでなく、スタッフ向けにマニュアルも装備

スマホアプリで決済し、購入金額を表示するシステムも

自動で会計、袋詰めをする「レジロボ」

電子タグをつけた商品。値札は電子棚札

デジタルサイネージは近づくと表示が商品の説明に。英語表示も可能

東京・品川のビル内。廊下に「ローソンオープンイノベーションセンター」という控えめな看板がかかっている。そばの扉を開けると、そこは一見普通のコンビニのよう。見慣れた商品棚に接客カウンターが並ぶが、よく見ると、天井などにいくつものセンサーが設置されている。出迎えてくれたのも店員ではなく、ロボットの「ペッパー」だ。

ここが2017年10月にオープンした研究施設、通称「ローソンイノベーションラボ」。コンビニ店舗を、AI、IoT、ロボティクスなどの最新テクノロジーを活用して効率化するために開設された。ラボでさまざまなソリューションを試し、目指すのは、買い物客が商品を持って出ていけば自動で会計が済むデジタル店舗。店の運営はシステムに任せ、スタッフはサポートに専念できる。そんな次世代店舗のプロトタイプを、ラボを通じて構築する狙いだ。

経済産業省は17年4月、25年までに全商品に電子タグ(RFID)をつけることでコンビニ大手5社と合意した。電子タグはバーコードに代わるもので、これまでの3倍の情報量を記憶可能。電波を使うので、離れていても読み取ることができるメリットがある。ラボには、この電子タグをつけた商品が置かれ、籠に商品を入れれば電子タグを読み取って自動的に袋詰め、会計ができる無人レジ「レジロボ」がある。

だが、それだけではない。電子タグを使って他にどんなことができるか、新しいソリューションを順次導入し、日々実験を繰り返しているのだ。たとえば、ラボの商品棚についている値札は、実は紙ではなく、液晶の電子棚札。これと電子タグを組み合わせれば、商品が棚で品切れのときも「○時間後に○個入荷予定」と値札に表示させることができるようになる。

電子棚札はセール時などに表示をすぐに変更できるし、商品についてウェブサイトで☆の評価が載れば、その☆を表示することもできる。また、棚にディスプレイされた液晶のデジタルサイネージは、人が遠くにいるときには広告を表示、近づくとセンサーが感知し、商品紹介の表示に切り替わる。買い物客の籠にビールが入っていれば、それに合わせておつまみをお勧めする広告を表示することも可能だ。

ラボのあちこちにあるセンサーは、温度や湿度を測るだけでなく、入ってきた人の動きを追うこともできる。そうして得られたデータからは、買い物客がどの棚を見て、どの商品を手に取り、最終的に何を買ったかまでの行動がわかるようになる。これまでリアル店舗では把握できなかった消費者の行動を、棚作りやマーケティングに生かせるようにもなるのだ。

18年春に無人レジの実証実験

ラボにあるソリューションやシステムには、12月現在で17社が関わっている。パナソニックなどの有名企業からベンチャー企業まで、多彩な顔ぶれだ。さらに「オープン」とつく名前の通り、行政やメーカーの関係者、店舗運営者など、IT業界と直接接点のない人たちも将来のデジタル店舗を見据えてラボに往来。活気ある実験場となっている。

ラボスタッフの一人、株式会社ローソンデジタルイノベーションの伊藤拓矢さんは、「実店舗で実験する時はよくよく考えた上でお店に持ち込まなければならなかったが、ここでは検証の過程でも試しやすい」と語る。広くオープンに技術を試せる場ができたことで、開発のスピードも速くなる。効果のある技術はリアル店舗でも実証し、18年度中にモデル店舗出店を検討している。12月4日にはローソンの竹増貞信社長が会見、深夜の時間帯にスマホのアプリを使って決済する無人レジの実証実験を、18年春にスタートすることを発表した。

ローソンがIT技術と真正面から向き合うラボ。オープンな環境やコラボレーションから、新しい風が吹き始めているようにも見える。生産性の低さが指摘されてきた小売業界で、その新しい風が大きな変化をもたらすことになるのか。今後のコンビニの変化が見ものだ。

(取材・構成/編集委員 上野真理子)

   

  • はてなブックマークに追加