「大転換」に勝ち抜くThink&Act

國分文也 氏
丸紅社長

2018年1月号 BUSINESS [インタビュー]

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國分文也

國分文也(こくぶ ふみや)

丸紅社長

1952年東京都生まれ。麻布高、慶應大経済卒。1975年丸紅入社。30代の時に米国で石油トレーディング会社設立を経験。2001年石油第2部長、03年中国副総代表、05年執行役員、08年常務、10年丸紅米国社長、12年副社長を経て、13年4月より現職。

――世界にとっても日本にとっても「時代の転換点」と仰っていますね。

 國分 まず言いたいことは、これまでの10年とこれからの10年は全く異なるということです。例えば欧州のBREXITやトランプ米大統領の誕生は、誰も想像しませんでした。世界の秩序そのものが超高速で変貌する大転換点に立っているのです。しかも、IoT、ビッグデータ、人工知能(AI)の技術革新を伴って、この変化のスピードは加速しており、これから10年は、もっと大きな変化が必ず起きる。この大転換の意味を考え抜き、発想や行動様式を切り替えなければ、今までのようには生きられない。

大半の社員が「思考停止」リスク

 ――日本人は変化を見過ごしている?

 國分 今、ビジネスの世界で起きていることは革命です。僕が「デジタル・トランスフォーメーション」を強く意識し出したのは2~3年前から。定点観測的に意見交換をしている世界各国のリーダーや経営者が、口を揃えて「デジタル」「データベース」と言い始めた。ASEANの財閥オーナーと面談している時、「このリテールは儲からないからダメだって? お前は何を言っているんだ! 我が国民の6割のデータベースを手に入れるビッグチャンスだぞ」と、ガツンとやられたこともある(笑)。

 従来の経営者の発想なら「まず事業があり、次に事業を効率化するためにデジタルを導入し、副産物としてデータベースができるから、できるだけ活用しよう」となる。ところが、彼らは事業とデータベースの関係を180度ひっくり返して「新しいビジネスや事業を生み出すためのデータベースを作る手段として、今の事業をする」と考えていたのです。こうした「逆転の発想」が、ASEANのトップの間では当たり前になっていました。

 ――コーポレート・スタッフ部門にIoT・ビッグデータ戦略室(IB戦略室)を作って、9カ月が経ちました。

 國分 データベースは、企業にとって最も価値のあるアセットになってきた。「データベースの厚み」が、資産の在り方や企業価値の測り方においても意味を持つ時代の幕開けです。従来型の「成長するには投資しかない」という考えを改め、人脈、資金、事業、ノウハウの集合体である丸紅をプラットフォーム=宝の山として捉え、活用すること――。IB戦略室のミッションは、そこから新たなビジネスモデルの創出を促すことです。

 ――すでに100件を超えるアイデアが、IB戦略室に寄せられたそうですね。

 國分 最終的にモノになるのが数件でも構わない。IoT、ビッグデータ、AIが重要だと、みんな知っているけど、その可能性を徹底的に追求するマインドセットを持っている社員は、まだまだ少ない。つまり、大半の社員が「自分ゴト」として捉えず、気づかないフリをしている。この思考停止が、最大のリスクなんです。僕は若手社員に期待しています。「こんなことができるはずだ」「これができたら顧客や取引先が喜ぶだろう」というアイデアをどんどん出してほしい。

 ――社長が「一押し」のアイデアは?

 國分 色々あるが、分かり易い例を挙げれば、「丸紅フットウェア」が手がける子ども靴「IFME」は、1~7歳までのカジュアルシューズ市場で約10%のシェアを誇る人気商品なんですが、これまで商品開発と販促に没頭している面がありました。ご使用方法などをデータベース化したら、ユニークなプラットフォームができるはずです。僕は丸紅のデジタル・トランスフォーメーションを、もっと大きな潮流にしたい。そのために全力で支援するし、僕自身も勉強しながら若手と議論する場も作りたい。

今こそ丸紅グループ働き方改革

 ――みずほフィナンシャルグループが、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を使って10年以内に1万9千人分の業務量を削減するそうです。

 國分 (詳しい事情は存じ上げませんが)強い危機感の現れだと思います。デジタル技術の飛躍的な進化と広がりによって大量のデータを瞬時に処理できるようになり、誰でも、どこへでもアクセスできるようになった。結果、様々な分野で新しいビジネスモデルが誕生、成長しています。この破壊的なインパクトは、必ず個人に及びます。

 非定型的な業務処理や、仲介や調整といった仕事もシステム対応できるようになり、今後10年間に今ある職業の50%がAIに取って代わられるとの見方もある。つまり、人間の競争力が失われ、仕事を失う働き手が増えるということです。私たち商社も例外ではない。

 ――今、「働き方」が問われています。

 國分 僕は、これは「働き手の価値」「存在意義」「意識改革」の話だと考えています。残業とか、効率化とか、そういう時間管理的な議論とは一線を画した「働き方」の問題です。「自分の知識やスキルが陳腐化していないと言い切れるか」「自分の力を組織外や社外と比較しながら客観的に評価できるか」「会社の看板を外しても、稼げると言い切れるか」――。答えがイエスでない人は、いずれ生き残れなくなるかもしれない。厳しいことを言うと思うかもしれませんが、こうした問題に直面する時代が、すぐそこまで来ています。だからこそ、今、丸紅グループの働き方改革を議論しなければならない。これからの丸紅グループを支えていく人材とは、既存の枠組みを超えた発想力を持ち、考え抜いた戦略を実行に移し、最後までやり遂げる人です。

 変化の潮流をつかむことができれば、ものすごいチャンスが得られる。その反対に、変化を見過ごして取り残されたら、たいへんなリスクに晒されます。「大転換」を勝ち抜くには、現在のことも、将来のことも、自分のことも、会社のことも、全て考えて、考えて、考え抜き、そして考えたことを必ず、実際の行動に移さねばなりません。現場の最前線に立ってナマの対象を見極める知の力を養い活かすことも大事です。これを、僕は「知的体育会系」という言葉で表現しています。こうしたメッセージを、世界各国のグループ企業に分かりやすく伝えるため「Think&Act Marubeni」というスローガンを掲げています。

(聞き手/本誌発行人 宮嶋巌)

   

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