安倍総理に全幅の信頼 「トランプカード」を握る

西村 康稔 氏 氏
内閣官房副長官

2018年1月号 POLITICS [インタビュー]

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西村 康稔 氏

西村 康稔 氏(にしむら やすとし)

内閣官房副長官

1962年兵庫県生まれ。東大法卒。経産省入省。米メリーランド大で修士号。2003年衆院初当選(兵庫9区。当選6回)。外務大臣政務官、内閣府副大臣、衆院内閣委員長、自民党総裁特別補佐・筆頭副幹事長を経て、17年8月より現職。自治大臣を務めた故・吹田愰氏は岳父。安倍総理の側近中の側近である。

――官邸入りして5カ月が経ちました。

西村 官邸は緊張感が違います。北の「火星15号」が発射された未明は、午前3時18分に起こされ、20分後に駆け付けましたが、すでに菅官房長官は、記者会見場に向かうところでした。「菅さんは背広を着たまま寝ているのではないか」と噂が流れるほど、素早い対応でした。

――安倍総理と長いご縁ですね。

西村 岳父のは、岸信介元総理の「城代家老」(山口県議会議長)を務め、その後を継ぐ代議士となり、後に安倍晋太郎さんを総理にしようと尽力しました。私の妻は、岸さんから字をもらい信子(のぶこ)と申します。私にとって安倍さんは年の離れた兄貴分であり、家族ぐるみで可愛がってくださいます。思い出すのは、官房副長官時代の安倍さんが、私の地元明石市で開かれた拉致問題集会においでになり、拉致被害者の有本恵子さんのご両親(明石市出身)を励まし、落選中の私の応援もしてくれました。

――どんな任務を託されましたか。

西村 これまで党総裁特別補佐・筆頭副幹事長として、二階幹事長とのつなぎ役や小泉進次郎さんたち若手の束ね役を務めてきましたが、とにかく大変な時期だからしっかり支えてくれと――。併せて「自分も(官房副長官時代に)小泉さんの首脳外交を見ながら、首脳会談とはこのようにやるものという勘所をつかみ、今に至った。経験を積んでほしい」と諭されました。ほとんど全ての首脳会談に陪席し、記者にブリーフィングするのが、私の役目。正に砂っかぶりで横綱の相撲を見て経験を積ませてもらっています。

「安倍総理が隣に座るならば」

――日米両国首脳が「異例の蜜月」と、世界で報じられています。

西村 安倍総理に全幅の信頼を置いているのは間違いありません。9月にニューヨークで開かれた国連事務総長主催の昼食会で、トランプ大統領は「安倍総理が隣に座るなら出席する」と注文を付け、2人が並んで座りました。情報交換しながら満座の会話に加わったそうです。

――ASEAN首脳会議でも、各国首脳から安倍総理への会談依頼が相次ぎ、「どうしたら大統領とうまくやれるのか」と、異口同音に問われたそうですね。

西村 総理は場数が違います。民主党政権の3年3カ月に鳩山、菅、野田の3代の首相が行った首脳会談は約290回でしたが、安倍総理はこの5年間に約550回の首脳会談をこなしてきました。人的ネットワークの広がりが別格ですから、各国首脳が頼りにするのです。

――ゴルフ外交を揶揄する向きもある。

西村 カートに乗り、グリーンを歩きながら、2人だけで話すまたとないチャンスです。実際、初のフロリダでのゴルフの時に、安倍さんは拉致問題を持ち出し、それが国連総会での大統領の拉致糾弾演説に繋がりました。初来日の時には、拉致被害者家族の声を膝詰めで聞いてくれました。訪日晩餐会では、安倍さんとトランプさんが楽しそうだから、ピコ太郎さんたち皆さんが周りに集まり、和気藹々記念撮影をする。トランプさんは経営者らしく、鷹揚で気さくなところがあります。オバマ前大統領の晩餐会とムードが一変したのも印象的でした。

――電話会談も18回に及ぶとか?

西村 いや、もっとじゃないですか(笑)。私が8月に官邸に来てからも10回ぐらいやってますから。何かあったら、気軽に電話を掛け合い、相談する。仲の良い友だち感覚に近いものがあります。これほどの日米両国首脳の親密さは、かつてなかったことです。

――訪韓したトランプ大統領は、米韓自由貿易協定(FTA)の再交渉をねじ込み、北米自由貿易協定の再交渉を、カナダとメキシコに押し付けています。

西村 ハガティ駐日大使は勘違いされているようですが、訪日中のトランプ大統領から日米2国間のFTAに関する発言はありませんでした。大統領が安倍総理の立場を尊重しているからだと思います。今、我が国の通商外交は弾みがついています。米国が抜けた環太平洋経済連携協定(TPP)は「死に体」と言われたが、安倍総理は米国抜きのTPP11に舵を切り、11月に大筋合意を実現した。さらに欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)も12月8日に交渉妥結しました。トランプ政権は、多国間より2国間協定を結んだほうが有利と考えていますが、逆に日本が、米国抜きでも質の高い自由貿易・投資の枠組みを作る決意を示し、それを成功させたことで「安倍外交」が花開いた感があります。

一瞬たりとも気の抜けない新年

――インドとの関係を重視する総理はモディ首相ともウマが合うようですね。

西村 日印首脳は1年おきに相互訪問しており、国際会議を含めるとモディさんとの首脳会談は11回を数えます。

――モディ首相は、トランプ、プーチン、エルドアン、ドゥテルテの各国首脳と並ぶ手ごわいリーダーですね。

西村 強いリーダーと安倍さんの「ケミストリー」が合うのは、総理が「役人の作文」を読まず、自分の言葉でビジョンを語り、ブレないからだと思います。

16年、総理は新たな海洋戦略として「自由で開かれたインド・太平洋戦略」を打ち出し、アジアからアフリカにかけての海域を「自由と法の支配、市場経済を重んじる場」と位置づけ、日米豪印の4カ国をはじめ、考え方を共有する国々で協力し、地域全体の安定と繁栄を促進する考えを表明しました。アフリカまで視野に入れ、インドや東南アジアとの連携を呼びかける総理の新海洋戦略に、ティラーソン米国務長官が賛同したのは、安倍外交の大きな成果です。

――北朝鮮のミサイルが気掛かりです。

西村 厳冬期を迎え、経済制裁の効果が必ず表れます。北朝鮮が白旗を揚げ、対話を求めて来るまで、徹底した圧力をかけ続けねばなりません。北朝鮮がどう出るか分かりませんが、その脅しに怖気づいたら負けです。何としても核・ミサイル開発を廃絶しなければならない。そのために日米韓が万全の態勢で警戒・監視を続けています。総理の下で一瞬たりとも気の抜けない新年を迎えることになります。(聞き手 本誌発行人 宮嶋巌)

   

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