2018年1月号
LIFE
by 小野悠史(フリー記者)
民泊反対運動が起きている京都市伏見区の住宅街の張り紙
今、京都市内では伝統的な京町家を活用した民泊のトラブルがあちこちで噴出している。市民の猛反発で行政が方針転換し、そこにブローカーの暗躍が加わり、グレーな物件売却も横行し始めた。民泊新法施行を前に、観光先進都市は混乱の様相を呈している。
京都の町並みを象徴するのが風情ある京町家だ。しかし、古い家屋は維持費が高く住みにくい。空き家が増え、京都市は保存・活用に頭を悩ませていた。そこに、はまったのが民泊ブームだった。
現行法下では、家を民泊として使うには住居から簡易宿所へ用途変更する必要がある。その際、旅館業法と消防法に加え、建築基準法が関連してくる。しかし、延べ床面積100㎡以下であれば、建築基準法にかかる確認申請が不要。町家は建築基準法施行以前に建てられたものが多いが、この抜け穴が追い風になり簡易宿所の新規開業が爆発的に増えた。2014年度に79件だった新規開業許可は翌年度以降246件、813件と増加し、17年度も9月末時点ですでに448件になっている。
だが、地元で40年以上不動産業を営むフラットエージェンシーの吉田光一会長は「急速に民泊が増え、住民に悪いイメージが定着してしまった」と語る。
伏見区内にある伏見稲荷大社は外国人観光客に大人気
町家民泊急増の背後には、民泊ブローカーがいる。前歴は、下火になった太陽光投資から鞍替えした者、投資家を束ねる中国人コンサルなどさまざまだ。多くは都内で民泊投資セミナーを開催し、新たな投資家を集めている。セミナーのチラシには「利回り」や「安定収入」といった文字が躍り、地元住民の生活は後回しになりがちだ。
事実、16年7月に京都市が設けた民泊通報・相談窓口には17年9月末までに2600件以上のクレームが寄せられている。一部住民は民泊利用の外国人観光客に罵声を浴びせるなど、過激化しはじめた。もはや、おもてなしが聞いて呆れる事態だ。
そこで京都市は17年に入り、「民泊のあり方検討会議」を設け、民泊の独自ルールを模索。また、縦割りを改め建築基準法に触れることが疑われる町家の情報を部署間で共有し始めた。違反が確認されれば旅館業許可審査を取りやめる。この措置で、町家の多くで許可取得が難しくなった。さらに、許可を得て稼働中であっても、苦情の多い民泊に指導を始めた。12月8日には、市内約2千軒の簡易宿所すべてを調査するため補正予算を付けた。違法な運用をする民泊を一網打尽にするのが狙いだ。
慌てたのが民泊バブルに群がる投資家たち。京都市の服部真和行政書士によると、現在「旅館業許可済み物件」として売り出されている町家のなかには、すでに違法建築として行政指導の対象になったものも含まれているという。おとがめを受けた投資家が、「許可取得」のプレミアムを付けたまま売り逃げを図り、「詐欺まがいの売り方に手を染めている」(不動産関係者)というわけだ。
民泊に詳しい石井くるみ行政書士は、「一度指導を受けた建物で新規の開業許可は難しい」と語る。そんな物件を掴まされたら最後、住宅にも戻せず、全面改修する以外に道はない。すでに、購入後に途方に暮れる投資家も現れている。京町家バブルは弾けかけている。