「マンション改修」暴利貪る設計コンサル

国交省がマンション管理士連合会を通じ異例の注意喚起。修繕積立金が危ない!

2017年9月号 LIFE
by 千葉利宏(ジャーナリスト)

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悪質コンサルを告発したマンションリフォーム技術協会の昨年の会報

分譲マンションの大規模修繕工事で、管理組合の味方であるはずの設計コンサルタントが、裏で施工会社に法外なバックマージンを要求する――。そんな「悪質コンサル」が増殖していると、今年1月、国土交通省がマンション管理士連合会を通じて注意喚起を行った。

問題の火付け役になったのは、設計コンサル団体のマンションリフォーム技術協会(略称・MARTA)。昨年11月に悪質コンサルの実態を内部告発した。「1、2年前から不適切な行為を行うコンサルの横行が目立つようになり、業界は混乱状態にある。問題を放置すれば、管理組合は割高な工事費で実害を受け続け、改修業界は信用を失ってしまう」と、会長の柴田幸夫氏は強い危機感をにじませる。

分譲マンションでは、30年以上の長期修繕計画に基づいて1戸当たり毎月平均1万円以上を修繕費用として積み立てている。この修繕費用を無駄遣いすれば、いずれ積立金不足に陥り、住民は必要な修繕工事を諦めるか、修繕費用の追加徴収を強いられ、将来マンションの劣化や荒廃にもつながりかねない。国交省でも事態を深刻に受け止めて異例の通知を行ったわけだが、その程度で問題が解決に向かうはずもない。

「国交省が注意喚起した後、状況に何の変化も起きていない。通知そのものを知らない管理組合がほとんどだ」と危惧するのは、マンション管理組合から様々な相談を持ち込まれる不動産コンサルタント会社、さくら事務所の土屋輝之氏。「素人集団の管理組合で設計コンサルと施工会社による巧妙な談合を見抜くのは困難」で、相変わらず悪質コンサルが跋扈しているというのだ。

法外なバックマージン要求

マンションの大規模修繕工事は以前、管理会社を通じて施工会社に「一括請負方式」で丸投げするのが一般的だった。それでは価格が不透明で割高になりやすいので、劣化診断、設計、工事監理などを設計コンサルタントに依頼し、施工会社を入札で決める「設計監理方式」が推奨されるようになった。

当初はMARTAに加盟するような個人設計事務所が受注するケースが多かったが、最近では超高層などマンションの大規模化が進み、工事額が10億円を超える大型案件も増えてきた。新築需要の減少で「これまでマンション改修に見向きもしなかった大手の設計コンサルが続々と参入してきた」(柴田氏)。当然、競争が激化し、不当な安値で受注する事業者が増加。その値引き分を穴埋めするため、設計コンサルへのバックマージンは工事費の最大20%程度ともいわれている。

「マンション管理会社を通じて設計コンサルと契約する管理組合も多いが、設計価格をみると修繕積立金残高の90~95%というのがほとんどだ。設計コンサルが残高を知るはずはないので、管理会社とグルになっているとしか考えられない」と土屋氏は指摘する。

国交省の通知では、悪質コンサル問題に対応するために住宅リフォーム・紛争処理支援センターなどのプロの相談窓口の活用を呼び掛けた。MARTAなど関係業界団体でも解決策の検討に着手しているが、具体策を打ち出すまでに至っていない。素人がクリーンか悪質かを見抜くのは難しく、「設計監理方式以外の方法を考えるべき」(土屋氏)との声も出ている。

「カギを握るのはコスト管理。問題解決のためには新しいシステムが必要だ」と、日本建築積算事務所協会の楠山登喜雄副会長は主張する。積算とは、設計図や仕様書から材料や数量を算出して工事原価を正確に見積もること。英国などでは発注者が最初に積算士と契約して工事全体のコスト管理を依頼する仕組みが古くから定着。米国では「コンストラクション・マネージメント(CM=施工管理)」方式と呼ばれ、設計コンサルは設計監理業務に専念し、発注者のサポート役にはコスト管理と施工管理の専門家であるコンストラクション・マネージャー(CMR)が当たる。

CM方式は、1990年代に日本でも注目されるようになった。発注者に工事原価をすべて開示、第三者による会計監査報告も行うことで、発注業務の透明性を確保。工事費は工事原価+報酬で精算するのが基本なので予算額をオーバーするリスクがあるが、超過額をCMRが全額負担するアットリスクCM方式と呼ばれる契約タイプもある。

ただ、一括請負方式を得意とするゼネコンにとって工事原価を開示するCM方式は仕事がやりにくく、発注者が外資系企業などの場合を除き、導入に抵抗してきた経緯がある。国や地方自治体も、予算内で工事完成を請け負う一括請負方式が楽なので、CM方式の普及には力を入れてこなかった。

「CM方式」創設に追い風

悪質コンサル問題が表面化し始めた5年前に、大規模修繕工事に特化してCM方式の普及を図る日本リノベーション・マネジメント協会(日本RM協会、会長・岡廣樹氏)が発足した。一方、さくら事務所では、施工会社の提案力を比較するプロポーザル方式の活用を提唱する。だが、いずれも管理組合にはまだ認知されていない。

「国の制度として確立していないCMなどの方式を管理組合が総会決議して採用するのは難しい」と、NPO法人全国マンション管理組合連合会の川上湛永会長は手詰まり状態を認める。このままでは巨額な修繕積立金が、悪質な設計コンサル・管理会社・施工会社の餌食になるのは目に見えている。

そんな中で今年7月、国交省の建設産業政策会議がまとめた最終報告に、国として初めて「CM方式の仕組みの創設」が盛り込まれた。同会議は10年後の建設産業の将来像を議論するため昨年7月に立ち上げられていたが、悪質コンサル問題がクローズアップされたことが追い風となって、20年来の懸案がついに動き出すことになった。まさに「瓢箪から駒」である。

これを契機に、果たしてアマ発注者であるマンション管理組合がトラブルや不都合がなく安心して工事が発注できる透明性の高い仕組みを確立できるのか。デベロッパーなどのプロ発注者は、品質・コストを厳しく管理するために自前の技術者まで抱えている。住まいと資産を守るために、もはや住民も無関心では済まされない。

著者プロフィール

千葉利宏

ジャーナリスト

著書に『実家のたたみ方』(翔泳社)など

   

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