北朝鮮の「核・ミサイル」是非もない「敵基地攻撃」

佐藤 正久 氏
外務副大臣

2017年9月号 POLITICS [インタビュー]

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佐藤 正久

佐藤 正久(さとう まさひさ)

外務副大臣

1960年福島県生まれ。防衛大卒。米陸軍指揮幕僚大学卒。自衛隊イラク先遣隊長、復興業務支援隊初代隊長=「ヒゲの隊長」として有名に。2007年参院全国比例区初当選(現在2期目)。防衛大臣政務官、参院外交防衛委員長などを歴任。内閣改造に伴い、8月7日より現職。

――7月28日深夜、北朝鮮が大陸間弾道弾(ICBM)を発射し、我が国の排他的経済水域(EEZ)に着弾しました。

佐藤 北のICBMは7月4日に続き高角度の「ロフテッド軌道」で発射され、通常軌道で飛ばした場合の射程は1万キロに達するとの分析もあります。金正恩氏は「米本土全域が射程圏内」と豪語しており、北の弾道ミサイル発射は今年11回を数え、性能を急速に向上させている。核弾頭の小型化が進み、ICBMに搭載可能になったら、それこそ悪夢です。

――なぜ、金政権は米本土を射程に入れる核ミサイル保有に突き進むのですか。

佐藤 リビア、イラク、アフガニスタンと、アメリカは核を持たない独裁国に先制攻撃を行い、滅ぼしてきた。金正恩氏は「核さえ持てば手を出せない」と考えているのです。朝鮮半島有事を念頭に米軍は日本に「核の傘」を与えているけれど、日韓駐留米軍や米本土が北の核ミサイル攻撃を受けるリスクを冒してまで、東京やソウルを守るでしょうか。北は昨年2度の核実験を強行し、年内に6度目の核実験を準備し、来年にもICBMを完成させる目論見のようです。米国の「核の傘」に穴が開くかもしれないという情勢に鑑み、「盾」としての日本の役割拡大が必要です。今までと同じ考え方で、我が国を守れるのでしょうか。

刮目すべきミサイルの「命中精度」

――北の脅威は新たな段階に入った?

佐藤 ICBMの標的はアメリカ本土ですから、これにより日本への脅威が高まったわけではない。より警戒すべきは、昨年9月5日、移動式発射台から3発の弾道ミサイルを同時発射し、ほぼ同一地点に同時着弾させることに成功したことです。さらに、今年3月6日にも弾道ミサイル4発を同時発射し、3発が日本のEEZ内の同一水域に落ちた。ミサイル命中精度の高さを見せつけるとともに、「在日米軍基地を打撃する部隊が発射した」と、米軍を挑発しました。この時に使われた中距離弾道ミサイル「スカッドER」の射程は約1千キロ。山口県の岩国基地など西日本全域に届く性能を有していることが明白になりました。

現在、我が国のミサイル防衛(MD)態勢は、迎撃ミサイル「SM3」を搭載したイージス艦4隻と、全国の17高射隊に配備された地対空誘導弾「PAC3」による二段構えですが、北朝鮮が同時に大量のミサイルを発射したら、全てを迎撃することは困難です。実際、北は件の「スカッド」数百発に加え、射程約1300キロの「ノドン」数百発、さらに米グアムに届く「ムスダン」を50発以上保有していると言われており、これらの「飽和攻撃」もあり得る。

――政府は4年後に「ミサイル防衛」イージス艦を倍増させる計画ですね。

佐藤 刮目すべき弾道ミサイルの命中精度と合わせて、北は核兵器の小型化・弾道化に成功しているかもしれない。2016年1月の核実験について、北は初の水爆実験に成功したと主張しているが、地震の規模から考えて、その可能性は低い。とはいえ、朝鮮半島有事の際、「核先制打撃」を公言している北が今後、非核化に向かうことはあり得ない。死活的な問題は大量のミサイルを同時発射されたら、完璧に撃ち落とせないことです。

――佐藤さんは3月30日、自民党安全保障調査会の一員として、核・ミサイル開発を進める北朝鮮について「敵基地反撃能力の保有を直ちに検討すべき」との提言を、安倍首相に出しましたね。

佐藤 政府は「(日本にミサイル)攻撃が行われた場合、座して自滅することを憲法は想定しない」として、敵基地を叩くことを「自衛の範囲内」と認めてきました。北の大量のミサイル攻撃に備え、巡航ミサイルや空対地ミサイルによる敵基地攻撃の手段を確保し、抑止力を高めることは理にかない、是非もない正当防衛です。この提言を出した座長は、防衛相に就任した小野寺五典さんであり、国民の生命と財産を守るために今、何を為すべきかという観点から、様々な検討が始まると思います。(編集部注:佐藤正久氏は本インタビューの3日後に外務副大臣に就任しました)

時代に即した「矛と盾」の役割分担

――憲法上、ミサイル攻撃が明白な場合、敵地攻撃が認められるとはいえ、「専守防衛」を掲げる日本は戦後、他国を攻撃する装備を持ったことがありません。

佐藤 外交努力を尽くして、平和的な解決を目指すのは当然ですが、国際社会の非難を無視して核・ミサイル開発に突き進む北朝鮮につける薬がありますか。「核」搭載可能なミサイルが主力兵器になった今日、敵基地攻撃の概念は変わり、専守防衛の一環と考えるべきです。挑発行為を繰り返す独裁国家は、何をしでかすか分からない。常に「想定外」を想定し、備えを怠らないことが大切です。

――日米同盟において米国は「矛」であり、その攻撃力に頼ってきた日本の「盾」としての役割が大きく変わりませんか。

佐藤 日米同盟が機能する前提には、互いの「価値観」と「負担」と「リスク」の共有があります。仮に北朝鮮が放ったミサイルが、日本領空を飛び越え米グアムに向かう途中で、迎撃力があるミサイルを自衛隊が持ち、それを自衛隊が見過ごしたら、日米同盟は根底から崩れます。また、朝鮮半島緊迫時に、米国が北朝鮮を攻撃したら、核ミサイルが米国本土を襲うかもしれない。同盟関係は運命共同体ではないから、米国はリスクを避け、日韓の頭越しに金正恩側と交渉するかもしれない。相手は「米国の利益が第一」と言い放つトランプ大統領です。心配にならないほうがおかしい。これまで自衛隊は防御に徹してきましたが、今後は米軍の打撃力の一部を補完するための攻撃力を持つことも検討すべきです。賛否両論が起こるのは当然ですし、米軍の圧倒的な打撃力に比べたら、自衛隊には期待できないという冷めた見方もあります。しかし、それでも北の核・ミサイルを怖れるなら、日米の共同対処能力を高めるアイデアと向き合わねば――。時代に即した「矛と盾」の適切な役割分担に基づき、自衛隊の敵基地攻撃能力をどうすべきか。同盟の抑止力強化をめざし、トランプ政権と真剣に話し合うべきです。(聞き手 本誌発行人 宮嶋巌)

   

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