2017年5月号 BUSINESS
BPO(放送倫理・番組向上機構)といえば、テレビ局にとっては非常に怖い存在。放送された番組について「審理入りする」ことを決めただけで、番組が打ち切られてしまうこともある。事実上の検閲機関と化している、という批判は絶えないのだが、生殺与奪の力を持つ委員はいくら暴走しても構わないようだ。
「今は若い女性が裸の写真を撮られることは、そんなに特別なことではない」
3月に放送人権委員会が開いた記者会見で、とある申し立てに対する決定文を起草した白波瀬佐和子委員(東大大学院教授)が、こう言い放った。放送されて問題になった内容ではない。BPOの放送人権委員会の委員の発言である。
白波瀬委員が起草した決定とは、元地方公務員が酒に酔って抵抗不能になった知人女性の裸の写真を撮って準強制わいせつ容疑で逮捕(その後不起訴)されたという事案に関するもの。元公務員は「勝手に裸の写真を撮っただけなのに、酒に酔わせて自宅に連れ込み、服を脱がせたかのように報じられた」と、熊本県のテレビ局2局の人権侵害を申し立て、放送人権委員会は2局に対し「名誉棄損はなかったが、放送倫理上問題があった」とする見解を出した。
白波瀬委員は「警察発表のストーリーに危険性を感じてほしかった」と述べた後、「今は若い女性が…」と件の発言をした。知人女性は後になって裸の写真を撮られたことを知り、怖くなって警察に相談して事件になったのだが、「こんなことで騒ぐほうがおかしい」といわんばかり。裸の写真を気にしないのなら、スカートの中を盗撮されたり、更衣室に隠しカメラを仕込まれたくらいで女性が騒ぐのはもっとどうかしているということになってしまう。
さすがに記者から「今の発言は聞き捨てならない」という声が出て、同じく決定文を起草した市川正司委員長代行が、白波瀬委員の発言は「委員会では、知人女性が同意していたかもしれないと想定して議論したということだ」と釈明した。
フォローしたつもりかもしれないが、全くフォローになっていない。委員会では、裸の写真を撮られた女性が「私の裸、撮ってもいいわよ」と同意していたことも想定して議論したというのである。こんなことは元公務員も主張していないし、委員会は女性からは一度も話を聞いていない。にもかかわらず女性をモンスタークレイマー扱いして、2年近くもずいぶんと勝手な議論をしていたものだ。
決定については9人の委員のうち3人が反対し、「警察発表通りのごく普通の事件報道で、どこに放送倫理上の問題があるのか」(全国紙担当記者)という声が多い。元公務員も決定が名誉棄損を認めなかったことに強い不満を表明している。さらに問題発言も加わって、BPOの劣化は覆うすべもないのだが、テレビやその大株主の新聞はこうした問題を報じない。放送局自らが作った組織の権威を傷つけることは、天に唾するに等しいからだ。
記者会見での発言がすぐさま報じられて指弾される閣僚には、さぞうらやましく映るだろう。不見識きわまる白波瀬委員を庇い、自浄作用が働かないBPOは、遠からず政府に付け入る隙を与えかねない。