編集後記「某月風紋」

2017年1月号 連載

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税金の無駄遣いを追及する民進党の江田憲司代表代行(2016年11月15日、撮影/宮嶋巌)

風化がすすむ1F事故。13年10月当時の4号機。

免振重要棟前で帰りのバスを待つ作業員(13年10月)

閑古鳥が鳴く1F事故定例会見(12月12日東電本店、撮影/宮嶋巌)

1Fの事故処理費が3年前の2倍、21兆5千億円に膨らんだ。経産省の試算によると、廃炉2→8兆円、賠償5・4→7・9兆円、除染・中間貯蔵3・6→5・6兆円に増大。世耕経産相は「限られた知見の中で予想が難しい部分がある」と釈明したが、突如見積もりが2倍になるとは解せない。

資源エネルギー庁で原発担当係長を経験した民進党の江田憲司氏は「資エ庁は原発推進だから、仮に正しい数字でも、彼らにとって過大な見積もりは出したくない。『時が経てば風化するから肥大化したら後で出せばいい』という発想がないとは言えない」と手厳しい。

4倍に跳ね上がった廃炉費は、有識者の見解を基に「米TMI(スリーマイル島原発)事故処理の約50~60倍になる」と説明したが、資エ庁の電力・ガス事業部長が「合理的に見積もれる数字ではない」と開き直るほど、いい加減なものだ。TMI事故と違って、1Fは核燃料が炉心を突き破り、原子炉内にデブリが分散。放射線量が非常に高く、取り出す工法が未確定だから、この先、何が起こるか分からず、8兆円で収まる保証もない。それでも経産相は「これまで試算を複数回行った結果、諸々の費用を全部含めたとしても、発電単位当たりのコストは、原発が一番安い」と言い張る。

民主党時代の野田首相が「事故収束宣言」を出したのは5年前の12月16日。当時予想された事故処理費は6兆円弱だった。あの時、過小ではないまともな試算を出していたら、「原発はコスト面でも割に合わない」と、再稼働に歯止めがかかったはずだ。

江田氏は「原発推進の人たちが『不都合な事実』を隠す性向にあることは、資エ庁時代に身に沁みた」と述懐する。事故処理費が6兆円→11兆円→21兆円に膨らんだのは、1F事故の風化が進んでいる証拠だ。

   

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