首相「第2の愛人」と化す維新

これほど都合の良い相方はいない。野党なのに何でも賛成してくれるからだ。

2017年1月号 POLITICS

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2016年の臨時国会は、野党第3党の維新が「与党化」する中、「強行採決」が続いた

自民党が民進党や共産党の反対を振り切り、TPP承認案を採決したことについて、安倍晋三首相は「強行採決」と認めていない。国会では「我が党は立党以来、強行採決をしようと考えたことはない」とまで強弁した。この際、採決の正当性を主張する論拠に使われたのが、日本維新の会だった。

「野党である日本維新の会は出席し、賛成した」

維新は2014年衆院選後の首相指名選挙で「安倍晋三」に投票していない。閣僚ポストも渡されていないし、法案提出前に審査する「与党の特権」も与えられていない。

確かに「野党」だ。民進、共産に次ぐ野党第3党だ。

けれども、秋から冬にかけての臨時国会での立ち振る舞いはどうみても「与党」だった。

はじまりは第2次補正予算案。続いてトランプ米政権誕生で死に体となるTPP承認案。そして年金カット法案と呼ばれる年金制度改革法案。維新は与野党が激突する議案に次々と賛成した。維新の同調がなければ自民党もここまで「強行採決」を重ねることはできなかったろう。

極め付けは首相自らが旗を振るカジノ解禁法案だ。自民党は維新とタッグを組み、ついに連立相手の公明党抜きの形で初めて強行採決に踏み切った。公明党は賛否をまとめられず、自主投票に。自公政権における公明党の「歯止め機能」が喪失したことを印象づける場面だった。

自民党は夏の参院選で、土井たか子氏のマドンナブームに敗れた1989年参院選以来27年ぶりに衆参両院で単独過半数を獲得。議席の上では公明党との連立は不可欠でなくなった。

そこへ維新がこれまで以上にすり寄ってきた。安倍首相が「与党」公明党と「野党」維新を天秤にかけ、そのつど好きな方をえり好みできる政治情勢が出現したのである。

求める「見返り」カジノだけ

維新代表の松井一郎大阪府知事は、カジノを中核とする総合型リゾート施設(IR)と万博の大阪誘致を目指し、安倍首相や菅義偉官房長官と会談を重ねてきた。カジノ解禁法案の強行採決後は「万博とのセットで大阪に圧倒的なにぎわいをつくりたい」と歓迎した。「カジノと万博」の大阪誘致が安倍政権に協力する見返りなのだ。クリスマス・イブの12月24日にも橋下徹氏とともに安倍・菅両氏と会談し、憲法改正への道筋についても話し合う見通しだ。

安倍政権が維新から得るものは、維新に比べて遥かに大きい。

与党の公明党が法案に難色を示せば、「維新は賛成」と牽制できる。野党の民進党や共産党には「すべての野党が反対ではない」と強気に向き合える。

いざ選挙となれば、野党に流れる政権批判票の一部を維新が吸収してくれた。維新は夏の参院選の大阪(改選数4)で2議席、兵庫(同3)で1議席を取る一方、民主党(当時)と共産党はともに1議席も得られなかった。松井知事は大阪での二人擁立について「共産党と民主党に大阪での議席を与えたくない」と公言。「最大の敵」は自民党ではなく、民進党や共産党なのは明らかだ。

しかも維新は日常的に激しい民進批判を繰り広げてきた。維新議員が国会で民進議員を「アホ」と罵倒したのは象徴的だ。民進党が「与党のくせに野党のふりをしている変な政党」(枝野幸男氏)と反発するのも無理はない。

閣僚ポストも、法案の事前協議も求めず、協力だけしてくれる。安倍首相にとってはまさに「安上がりな相方」なのだ。

安倍は早「次の相方」養育中

橋下氏が石原慎太郎氏と手を組み、維新を国政進出させた12年衆院選。維新は「自民でも民主でもない第三極」を掲げて躍進した。安倍1強時代に入ると自民党に接近し、民主党に取って代わって野党第1党の座を得る戦略に軸足を移した。

自由党、保守党、みんなの党……。与野党が1議席を争う小選挙区制が96年に導入された後、政権批判票の大半は野党第1党に流れ、全国組織を持つ公明党と共産党を除き、第三極の政党は次々に消滅した。唯一の例外は民主党だ。96年結党後、野党第1党の新進党がほどなく内紛で解党。路頭に迷った新進議員を大量に吸収して野党第1党に昇格したからこそ、生き残った。

まずは民進党を倒し、二大政党の一角に躍り出る。第三極としてその戦略は決して間違っていない。野党第1党でさえあれば、政権批判票をそこそこは取れる。与党が失敗したら、政権が転がり込む。小選挙区制とはそういうものなのだ。

だが、橋下氏という個性派リーダーが政界を去り、維新の勢いは陰った。大阪にとどまらず全国で躍進するリアリズムはもはやない。安倍政権との距離をめぐり分裂した後は自民党へのすり寄りに拍車がかかり、かつて維新との連携を探った民進党の前原誠司氏からも「自民の補完勢力」と突き放された。「自民でも民主でもない第三極」は、「自民党による野党分断のカード」に変わり果てたのだ。

安倍政権はそんな維新をとことん使い切るつもりだ。特に安倍首相の悲願である憲法改正に協力的なのは旨みが大きい。発議に必要な「3分の2」に維新はしっかりカウントされている。

とはいえ、維新の利用価値があるのは現有議席を保持できる衆院解散まで、当面解散がなければ18年春~夏に見込まれる憲法改正の発議までだ。国会での野党分断には役立っても、次の衆院選ではこれまでほど野党共闘を崩す効果は期待できない。

18年末までに行われる衆院選で民進、共産、自由、社民4党が候補を一本化したら、自公両党は日経新聞試算では60選挙区、読売新聞試算では59選挙区で逆転され、維新を足しても3分の2を大きく下回る見通しだと報じられた。維新に代わる「第三極」が現れてくれたら……。

そこへ浮上したのが、小池百合子東京都知事の新党構想だった。東京五輪や築地市場移転で改革姿勢を打ち出す小池氏への不満は、自民党都連を中心に根強い。それでも安倍首相は小池新党の芽を摘むまい。いや、水面下で支援するだろう。「都合の良い相方」を養育していくことこそ、最も安上がりな政権維持策であることを、維新を通じて肌身で知ったのである。

   

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