山口泰明 氏
自民党組織運動本部長
2017年1月号
POLITICS [インタビュー]
聞き手 本誌編集長 宮嶋巌
1948年埼玉県川島町生まれ。日大法学部卒。叔父(武州ガス会長)の下で25年間企業経営を学び、96年衆院初当選(当選6回)。2005年内閣府副大臣、13年党経理局長、14年党財務委員長を経て15年より現職。安倍総理、麻生副総理の信頼が厚く、菅官房長官とは当選同期で仲良し。
――夏の参院選直後、「余人をもって代えがたい」と、総理のご指名で組織運動本部長「再任」が決まったそうですね。
山口 副総裁や幹事長がおられる前で、総理から「何たって人たらしだからねぇ」と冷やかされ、大笑い。参りました(笑)。
――組織運動本部長は歴代総理経験者(竹下、森、小泉各氏)、最近では菅官房長官が務めた重要ポスト。その任務は?
山口 一番の仕事は、各々の選挙で勝利できる強靭な組織を作ることです。幹事長が示された選挙戦略を、いかに着実かつスピーディに実行するか――。我が本部の下で団体総局、地方組織・議員総局、女性局、青年局、労政局、遊説局の6局が、人と人、地域と地域をつなぎ、ふるさとを支える草の根の声を、政治に活かせるよう汗を流して働きます。
――山口さんは党集票組織の総元締め。戦後政治の総決算というべき「真珠湾訪問」の風を背に「1月解散」ですか?
山口 衆院任期が2年を切り、如何なる時も「常在戦場」です。目下、力を注いでいるのは「120万党員獲得運動」。自民党員は97年から16年連続で減少し、野党時代には73万人に減りました。14年89万人、15年98万人まで盛り返しましたが、党勢拡大はまだ道半ばです。
団体総局の15関係団体委員会が実働部隊となる、約530の友好団体との関係強化も非常に重要。各正副委員長ができる限り団体に足を運ばなければダメだとハッパをかけています。さらに政権与党らしい活動として予算や税制などの政策懇談会をきめ細かく開催し、協議会加盟団体の要望を丁寧に受け止めていきます。
――自民党には当選1~2回の衆院議員が約120人(全体の4割)いますが、3人に1人は再選困難との見方もある。
山口 安倍政権の追い風で議席をつかんだ1~2回生には組織力が弱い先生が少なくない。いまだに後援会を持たない人もいます。逆風に晒されたら簡単に吹き飛ばされるでしょう。自民党が安定した政権基盤を堅持するには、1~2回生の勝利が鍵を握ります。現在、古屋(圭司)選対委員長との連携を密にしながら党勢拡大、後援会づくり、あいさつ回り、街頭活動、広報活動などのノウハウを個別具体的に伝授しています。若手のテコ入れには、地域に根差した青年局、女性局のきめ細かな活動が欠かせません。
――11月末、民進党の支援団体・連合との政策協議が、党本部で開かれました。
山口 連合の逢見事務局長から雇用対策などの要望書を手渡された茂木政調会長は「連合の政策と最も近いのは自民党だ」と、満面の笑みでしたね(笑)。
――共産党との「共闘」を巡って、民進党と連合の仲はギスギスしています。
山口 我が本部の労政局のトップは、労働界と強い信頼関係で結ばれた森英介元法相です。労政局は連合をはじめとする労働組合と地道な交流を続けてきました。政策協議が5年ぶりに復活したのは、連合執行部が野党に寄りすぎた立ち位置を修正しようとしているから。雇用環境が目に見えて改善した今、賃上げや働き方改革などの政策面で、我が党と労組が連携できる分野が広がってきました。連合との対話は大きな前進です。来るべき総選挙で連合が正面から自民党の候補を支援するハードルは高いとしても、これまで当然のように支持してきた民進党の候補を労組ごと、候補者ごとに厳しく選別して推薦するか否かを決定するだけでも、大きなアドバンテージになります。
私は大負けを覚悟で解散してくれた野田さん(前総理、現民進党幹事長)にたいへん感謝しています。お陰で返り咲けましたから(笑)。野田さんは小沢(一郎)さんと共産党が大嫌い。その彼が小沢さんと酒を酌み交わし、共産党と手を組もうとしている。その有り様は、政権に復帰しない限り、総理経験者でも仕事ができないと語っているに等しい。今、自公は衆参両院で3分の2を占めていますが、数に驕って議員風を吹かしたら鉄槌を食らいます。落選経験のない1~2回生には、次も当選することが一番の仕事だぞと、口を酸っぱくして説いています。
――安倍総理との出会いは?
山口 安倍さんが官房副長官の頃、赤坂の居酒屋で囲む会をよくやりました。安倍先生は、実にかっこいい政界プリンスでしたが、驚くほど庶民的で「ここまで喋っていいのか」と心配になるくらい、裏話を含め何でも話して下さる。そのザックバランな人柄に惚れ込んでしまいましてね、「再チャレンジ支援議連」(06年)の旗揚げでは、同じ歳で当選同期の菅さんが幹事長、私は事務方をやりました。
――何が総理の一番の魅力ですか。
山口 どんな相手にも言うべきことをはっきり言う。手練手管がないから各国首脳からも信用され、好かれ、仲良しになれる。これほどストレートで外交上手な総理はいなかったと思いますね。
――2度目の総理で大化けしましたか。
山口 総理を辞め、慶応病院を退院された直後、菅さんと一緒に富ヶ谷のお宅に伺い「先生は若いのだから、もう一度総理を目指しましょうよ」と励ましたことを思い出します。総理の座を駆け上がった頃の先生の周囲にはのごとく人が集まったが、総理を辞めた途端に潮が引くように誰も来なくなったそうです。辛酸を舐め尽くした先生は人物を見極め、適材適所で使う術を会得されたのだと思います。「人は石垣、人は城、情けは味方、仇は敵」と申しますが、経営者出身の私から見て、安倍先生ほど仕え甲斐、支え甲斐のある「社長」はいませんね。
福岡6区補選では、麻生さんと菅さんの間にしこりが残ったと、皆さんは面白可笑しく書くけれど嘘ですね。総理を支える麻生さん、菅さんのトライアングルは盤石ですよ。なぜなら3人とも政権転落の塗炭の苦しみを味わったから。野党を経験した我が党の幹部は「二度と下野しない」と、心に誓っているのです。
菅先生には私の次男・晋(すすむ)の結婚式の仲人をお願いし、総理には最後までご臨席を賜りました。感動した夫婦は誕生した孫を晋太郎と名付けました。政治も人生も人との出会い、人とのつながりが全てなんです。