団塊世代にお手上げ「2025年問題」

彼らが後期高齢者に達する8年後、介護・医療費が急増。社会保障不安に処方箋も解決策もなし。

2017年1月号 BUSINESS

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衆院厚生労働委員会で塩崎厚労相(左)と話す安倍首相

Photo:Jiji Press

安倍晋三政権が高齢者の医療・介護負担増や年金の給付削減、中堅サラリーマンの所得増税を求める政策に舵を切った。アベノミクスに黄信号が灯る一方、「社会保障と税の一体改革」が停滞・後退して財政事情が厳しいゆえの苦肉の策である。

こうした負担増ラッシュにもかかわらず、団塊世代が後期高齢者になる「2025年問題」に対する十分な処方箋は描けていない。政策の弥縫策を続ける安倍政権への批判が高まりかねない瀬戸際といえよう。 

増税先送り「負担増ラッシュ」

「私が述べたことを全くご理解頂いていないようであれば、何時間やっても同じだ」――。 

安倍首相は、公的年金の支給額を引き下げる新ルールを盛り込んだ年金制度改革法案を衆院厚労委員会で強行採決する前、民進党議員にこう言い放った。 

環太平洋経済連携協定(TPP)からの脱退を明言しているトランプ米新大統領の政権発足を1月に控え、首相が成長戦略の柱とするTPP発効は絶望的だ。経済外交の失点は否めないが、それでもマスコミ各社の内閣支持率が高止まりしていることに安心しているのか、首相の傲慢さが発言にほとばしり出た。 

だが、なによりも首相の大誤算は、アベノミクス推進と表裏一体でもある社会保障・税一体改革の足踏みだろう。 

首相は景気への配慮を理由に、8%から10%への消費税率引き上げ時期を2度も先延ばしにした。当初は15年10月の予定だったのを17年4月に1年半遅らせた後、16年6月には2020年の東京五輪・パラリンピックを控えた19年10月まで、さらに2年半も延ばしてしまった。 

消費税増税分はすべて社会保障の充実と安定化に向けることが政府方針で、増収で得た財源を子ども・子育て(約0・7兆円)、医療・介護(約1・5兆円)、年金(約0・6兆円)に充てるという配分を示してきた。 

だが、10%先送りでは見込んだ財源を確保できず、ない袖は振れない。首相が再延期に伴い、「社会保障の給付と負担のバランスを考えれば、引き上げを延期する以上、その間、引き上げた場合と同じことをすべて行うことはできない」と国民に訴えたのも、社会保障の充実はお預けという白旗宣言だった。 

そもそも増税先送りは、選挙目当ての痛み隠しが本当の理由だろう。となると、負担増ラッシュは、首相の思惑で狂った財源確保シナリオの頓挫のツケを国民に回し、一体改革の綻びを糊塗していることになる。 

安倍政権の負担増・給付減案を整理しておこう。 

先述した年金制度改革関連法案のほか、厚生労働省は70歳以上が支払う医療費の自己負担上限(月額)の引き上げ、現役並みに所得が高い高齢者の介護サービス自己負担の2割から3割への引き上げ案を示した。 

介護保険では、健康保険組合などの加入者の収入に応じて保険料を決める「総報酬割」の仕組みとし、高収入の大企業社員らの保険料負担を増やす。 

塩崎恭久厚労相は、「高齢化の進展で、どのように給付の重点化、効率化に資する工夫を凝らしていくかが大事」と述べた。かねて「持続可能な医療介護制度になること、とりも直さず持続可能な負担と給付が行われることだ」を持論とする。 

政府は16~18年度の社会保障費の自然増を1・5兆円に抑える目標を掲げる。17年度は自然増分を約6400億円と見込むが、負担増と給付減をあれこれ積み上げて自然増を抑え込もうと躍起なのだろう。アベノミクス停滞による税収の大幅減も政府には打撃だ。 

所得税改革では、配偶者がパートで働く世帯を減税する所得税の配偶者控除の見直し方針があっさり決まった。 

働き方改革の一環として、配偶者控除を夫婦控除に変更する抜本改革は断念し、控除を満額受けられる配偶者のパート年収の上限を「103万円以下」から「150万円以下」に引き上げる。実質パート減税である。税収中立のために高所得世帯は除外し、財源を確保する。 

ちぐはぐな結論の背景にも、社会保障費が増大する中、消費増税先送りで財政に余力がない悪影響が及んでいる。 

政府は現状にすら汲々

一連の政策案は、官邸の顔色を踏まえた厚労官僚と財務官僚が知恵を絞ったものだ。 

財務省は先手を打つ形で、財政制度等審議会の建議に「年齢ではなく負担能力に応じた公平な負担」という文言を滑り込ませた。政府税制調査会の中間報告でも「負担能力に応じて負担し支え合う仕組みを目指す」という表現があり、負担増の流れを誘導した。「取りやすいところから取る」というわけで、厚労官僚も相乗りした格好だ。 

一方、一段と重荷になってきたのが2025年問題である。 

25年には団塊世代が後期高齢者に達し、介護・医療費など社会保障費の急増が懸念されている。高齢者1人に対して生産年齢人口約9人で支えた1965年の「胴上げ型」から、現在は高齢者1人に約2・4人の「騎馬戦型」、そして2050年には高齢者1人に約1人という「肩車型」社会を迎える。25年は肩車社会目前だけに、処方箋や解決策を急ピッチで描く必要があるが、政府は現状にすら汲々としている。 

15年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2015」(骨太2015)はこう記していた。 

「社会保障・税一体改革を確実に進めつつ、経済再生と財政健全化及び制度の持続可能性の確保の実現に取り組み、国民皆保険・皆年金の維持そして次世代へ引き渡すことを目指した改革を行う」「団塊の世代が後期高齢者になり始める2020年代初め以降の姿も見据えつつ、2018年度までの集中改革期間中に取り組みを進める」……。 

2025年へ不安を払拭し、改革に道筋をつけるのは至難の業で、空証文に終わりそうだ。 

首相は年明けの解散・総選挙の可能性を捨てていないともいわれる。時期は未定だが、いずれ総選挙が来る。だが、高齢者ほど負担増に反発して投票行動に出るシルバー民主主義が顕著だし、若者や中堅サラリーマン層も安直なつけ回しや世代間不公平に猛反発しかねない。 消費増税先送りと一体改革後退を負担増で突破しようとする首相は、幅広い世代からの鉄槌による高転びに要警戒だろう。

   

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