2016年9月号
連載
by 宮
政府支援を求める「直訴会見」(東電本店、撮影/本誌 宮嶋巌)
「仕掛け人」の西山圭太取締役
福島第一原発の廃炉費用は10兆円以上!
7月28日、東京電力が政府に支援を求める会見を開いた。「激変する環境下における経営方針」と題するプレゼン資料は国費投入を懇願する「直訴状」に等しい。數土文夫会長は「負債が見えない『青天井』の時には経営者は有効な手が打てない。国民負担を最小化するためにも政府との連携を強める」と訴えた。
2年前に国と東電が作った再建計画は、国が9兆円の交付国債を発行して、事故処理費用を立て替える仕組み。内訳は賠償5.4兆円、除染2.5兆円、中間貯蔵1.1兆円だが、既に被害者への賠償は6.4兆円に達し、除染と中間貯蔵も上振れ必至だ。加えて、原子炉内に溶け落ちた核燃料の回収作業が始まると、「手当済みの2兆円は吹っ飛び、廃炉費用は10兆円を超えるだろう」(東電関係者)。
東電は「責任と競争の両立」を謳うが、「福島の責任」にかかる費用が際限なく膨らむと電力自由化の競争激化に耐えられない。実は東電に「直訴」を仕向けたのは、青天井の廃炉費用に強い危機感を抱く筆頭株主の原子力損害賠償・廃炉等支援機構だった。実際、記者会見で政府との連携・課題共有を強調したのは、同機構の連絡調整室長を兼ねる経産省出身の西山圭太取締役であり、会見に同席した廣瀬直己社長の出番はなかった。
安倍政権が参院選に大勝し、次の選挙は遠のいた。経産省は今秋、関連審議会を動かし、原子力事業環境整備の議論を再開する。そこには選挙の空白期間であれば、世論の批判が渦巻く「血税」投入でも乗り切れるという読みがある。さらに、経産相にはNTT出身で事業家でもある世耕弘成氏が就き、自民党の総務会長には元官房長官の細田博之氏(元通産官僚)、政調会長には元経産相の茂木敏充氏が座り、原発推進派の重厚布陣となった。果たして「責任と競争の両立」を実現する新たな支援策がまとまるだろうか。