2016年9月号 POLITICS
神津会長は次期代表に蓮舫を担ぐ腹を固めたが……(撮影/本誌 宮嶋巌)
「党を立て直せるのは蓮舫しかいない」――。民進党の岡田克也代表が9月の党代表選に出馬しないと表明した7月30日、岡田氏から事前に電話で知らせを受けた神津里季生連合会長は「新代表は彼女しかない」と腹を固めていた。蓮舫氏は党再生の切り札であり、連合における神津体制の行方をも左右する。
反転攻勢を賭けた7月の二つの選挙(参院選・都知事選)で、「改憲勢力に3分の2」を奪われ、小池百合子知事の誕生を許し、完敗を喫した民進党。連合傘下の組織から、共産党との共闘路線への批判が噴出した。
とりわけ野党4党推薦の鳥越俊太郎氏が小池氏に惨敗した都知事選では、連合東京が自主投票を決め、民進党からの支援要請を拒否。街頭で「脱原発」を訴える鳥越氏に、旧同盟系の産業別労組は「鳥越は共産党だ。民進党を潰す気か」と嫌悪感をあらわにした。
民進党は参院選での野党共闘を「一定の成果を上げた」と総括したが、連合は8月末の中央執行委員会で、共産党との共闘路線を否定する見解をまとめる見通しだ。一方、8月5日に代表選出馬を表明した蓮舫氏は「野党連携は『基本的枠組みは維持しつつ、検討を必要とする』との一言に尽きる」と表明。これを聞いたある産別幹部は「共産党との関係を続ける以上、誰が代表になっても連合は距離を置くだろう」と警告する。
とはいえ、野党共闘の評価については、連合内も一枚岩ではない。旧総評系の産別からは「参院選の1人区は共産党の支援があったから11勝できた」との声が上がり、衆院選での協力にも肯定的だ。都知事選では自治労東京都本部が鳥越氏と政策協定を結び、選挙活動を実質的に支援した。神津氏に近い連合関係者は「共闘を全否定すれば執行部内に亀裂が入る。組織をまとめ切れるか、神津さんの手腕が問われる局面だ」と言う。
まずいことに、今回の野党共闘をきっかけに、連合と民進党に軋みが広がっている。都知事選では、神津会長が当初「勝てる候補」として蓮舫氏の出馬を熱望。自らも環境整備に動いたが、最終的には連合との事前協議もないままに、民進党執行部が鳥越氏擁立を強行し、参院選で生じた溝はさらに拡大した。
民進党代表選には、保守派から前原誠司、長島昭久両氏らが出馬を模索しているが、現状では知名度が高く、岡田氏ら主流派から支持を受ける蓮舫氏が圧倒的に優勢だ。とはいえ、彼女が労組票を束ねる赤松広隆前衆院副議長らに傾き、野党共闘を強く打ち出した場合、「代表選後に保守派が離党する党分裂もあり得る」(保守派中堅議員)。
神津氏は来年10月に1期2年の任期を終える。連合内には首相官邸と近いUAゼンセン出身の逢見直人事務局長への禅譲説が流れる。逢見氏は昨年6月、事務局長就任が内定した直後に、安倍首相と密かに会談しており、UAゼンセンの先輩である高木剛元連合会長が仲介したとささやかれた。
神津氏は「参院選をしっかり総括して、民進党との関係を整理しなければ」と覚悟を決める。「蓮舫代表」が確実な情勢だが、共産党との間合いを巡って、「蓮舫推し」の神津氏も明確な物言いを求められるだろう。官邸の分断工作が見え隠れする中、2期目を目指す神津氏も勝負どころの秋を迎える。