2016年9月号
連載 [永田町 HOT Issue]
by 牧原秀樹(自民党衆議院議員)
第24回の参議院選挙が終わった。この選挙は二つの意味で歴史的であった。
一つは、18歳選挙権が実現したことであり、もう一つは初めて自衛隊を違憲とし、「天皇制」廃止を目標とする勢力が中心となって野党共闘がなされたことである。この二つのどちらも今後の政治への中長期的な意味での影響は大であるとみている。
このうち、前者の若者対策については、私が青年局長として対策の責任を担った。そして、結果から言えば、18歳、19歳を含めて若い世代は、他の世代の平均と比較しても圧倒的に自民党にご支持賜った。その背景として、私たちがどうこの新しい選挙に臨んだかを述べたい。
まず第1に、私たちとしてはこの選挙を日本の政治を変えるきっかけにしたい、という強烈な思い入れがあった。というのも、平成28年7月1日現在(概算値)で最も人口が多いのは40代(1880万人)だが、ほぼ同じ60代(1842万人)や70代(1387万人)の投票率が最も高く政治的影響力が著しく強い。他方、60代と比較すれば600万人近くも少ない20代(同1271万人)の投票率が最も低い。その結果、シルバーデモクラシーと言われる状況にあるからである。
18歳と19歳の人口は約240万人であり、この人数を20代の人口に足すとようやく70代を超える。これに30代の人口(1535万人)を加えれば合計で18歳から40歳未満の人口は3046万人と、65歳以上の人口(同3448万人)と近いところまで来る。あとは、投票率を上げれば世代間バランスが取れるのではないか、ということだ。イギリスのEU離脱国民投票でも、20代など若手は残留支持、60代以上は離脱支持と年代で見ている視点が違う傾向が表れている。今回も若手は自民党支持が強く、年配の皆様に行けばいくほど野党支持が高かった。
第2は、何よりもまず投票に行くということだ。投票には行かないという若者に聞くと、その親も選挙に行かないという人が多かった。つまり、低投票率には世代を超えた悪循環がある。しかし、これだけ18歳選挙権が話題となった最初の選挙なら選挙に行く可能性があり、それによって悪循環を断ち切れる可能性がある。だから、何よりも投票率向上に力を入れた。
第3は、これが特に民進党などとは一番違う点だったと思うが、18歳や19歳を含めた若者たちを未来を担う同志として接した。だから、Real Youth Projectという、とにかく全国の地方議員を含めた全青年局メンバーで若い世代と接する機会を増やすプロジェクトを開始した。議員インターンシップも拡大し、初めて地方議員も受け入れる体制作りをした。さらに、学生部の創設に力を入れ、全国の青年局に学生担当部長を置き、初めての学生部全国大会を開催し、私と小泉進次郎元青年局長とのトークセッションを行って、日本の未来について彼らと意見を交わした。
軽いノリでタレントやモデルを使って投票を誘うやり方は、中長期的に見れば国を担う人材作りには意味がない。むしろ、彼らと真剣に触れ合えば触れ合うほど、未来への不安感など共有する思いを感じたし、そこに眠る新しい感性や感覚を政治に活かしていきたいという思いにも駆られた。彼らに教えてもらい、クールジャパンとして政策に活かすというスタンスで、若者イベントにも複数参加した。
第4に、日本がいかに厳しい状況にあるか、を伝えた。
日本のように超少子高齢化が進行し、人口は大幅に減少していくと見込まれ、さらに累積財政赤字は膨大だという国はない。しかも、戦後の日本を牽引した産業の多くが国際競争力を失ったか、失いつつある。
だから、何でも景気や自民党や安倍総理のせいにしたりする世の中の「他人任せ」「誰かが何とかしてくれる」の風潮に染まっても何の解決にならず、「自分たちで何とかしなければならない」という時代に入っているのだと愚直に訴えた。
私はそれを「逃げ切れない世代」だと言っている。日本は外国から見ればタイタニック号のようでもあり、単に船長や船員を責め立てても沈没は避けられない。今必要なのは、一緒に船の沈没を防ごう、と行動する同志であり、その原動力は船が沈没しそうだと知らなければ産まれない危機感である。
第5に、広報活動では、若者向けパンフレットを作った。このパンフレットの片面は、表紙と中身が漫画になっている。逆側は私を含めた若手議員と18歳、19歳の皆さんとの対談になっている。実は、個人的には漫画はどうだろうかという思いもあった。
しかし、結果的には私の懸念の通り一部で批判的な反応があったものの、それがかえって宣伝効果を高め、街頭で配布をすると漫画ではない側を表にして配るとなかなか受け取らないのに、漫画側を表にして配るとはるかに受け取ってくれるのを実感した。この点、自民党の広報担当議員や職員の皆様の力というのは本当に大きかった。
以上、私たちとしては様々な取り組みをしてきたのだが、結局最も大きかったのは、政権交代後の政策であったと思う。特に就職内定率と若年失業率ではなかったか。
若い世代は、ダイレクトに景気の波をかぶりやすい。民主党政権時代と比較して、若年失業率は8~9%台から6%前半になり、就職内定率は過去最高水準となった。若者に限らない有効求人倍率は全国すべての都道府県で1を超え、完全失業率も歴史的・世界的低水準にある。
若者にとって、失業こそ希望を奪うものであり、世界的に見ればそれがテロの一因にもなっている。
やはり、最大の若者対策は「政策」である。若い世代は、未来に不安感があるからこそ単なる悪口や批判に終始したり、小手先の人気策を弄したりするような政党や政治家は信用しない。そういう風潮が世代を超えてむしろ主流になれば、国会や政党・政治家も変わるはずだ。そして、政治がそう変わらなければ日本が終わってしまう。「日本は変われる。まだまだいける」。そんな風に思わせてくれた若い世代の皆さんに感謝する。