肝臓によい「クルクミン」 眠れるパワーに懸ける

橋本 正 氏
セラバリューズ社長

2016年9月号 BUSINESS [インタビュー]
聞き手/本誌編集長 宮嶋巌

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橋本 正

橋本 正(はしもと ただし)

セラバリューズ社長

1952年生まれ。京大工学部で福井謙一教授(ノーベル賞受賞)に学ぶ。31歳の若さで分析機器大手「日本ウォーターズ」社長。米国大塚製薬の副社長を経て、95年日本コカ・コーラ入社、03年副社長。07年バイオ・ベンチャー「セラバリューズ」を設立し、今日に至る。

――ウコンと聞けば二日酔いの予防策としてお馴染みですが、その活性成分「クルクミン」を強化した機能性表示食品を、7月末に初めて発売しましたね。

橋本 昨年4月に健康食品の新しい制度「機能性表示食品」が発足してから300点を超える商品が生まれましたが、肝臓の健康に役立つと銘打った商品は、当社の高吸収クルクミン製剤「セラクルミン」が初めてです。また、トクホ(特定保健用食品)でも肝臓関連の許可商品は存在しませんから、文字通り日本初の肝臓が気になる方向けの商品なんです。

――「γ(ガンマ)GTPが下がった!」と宣伝していますが、本当に効果がありますか。

橋本 肝機能検査値が高めの健康な男女19人にセラクルミンを1カ月間飲んでもらったところ、摂取開始前に比べAST(GOT)、ALT(GPT)、γGTPの値が、それぞれ12%、16%、15%低下しました。セラクルミンは医薬品ではないので肝機能検査で出た異常値を改善するものではありませんが、健常域で高めの数値の低下に役立ち、健康な肝臓機能を維持する効果があります。ちなみに日本人間ドック学会によると、2014年調査で313万人中106万人(33.7%)が肝機能異常でした。その「予備軍」の方向けの健康食品です。

「慢性炎症」を抑制するクルクミン

――これまで機能性表示食品の素材(関与成分)としてクルクミンの届け出がなかったのは、なぜですか。

橋本 クルクミンはウコンの根茎中に3~5%含まれるポリフェノールの一種で、古くから香辛料や漢方薬として利用されてきました。昨今では、その抗炎症・抗酸化作用が解明され、健康維持に役立つことがわかってきました。ところが、クルクミンは体内吸収性が極めて悪く、いくら摂取しても99%以上が体外に排出されてしまいます。このため、機能性表示成分として届け出がなかったのです。

私がクルクミンの眠れるパワーに着目したのは、当社を創業して間もない9年前、その潜在パワーを引き出す「高吸収製剤」の開発を思い立ったのです。そこから数限りない失敗を重ねました。まず、何かに溶かせばよいと考え、界面活性剤を10種類以上選んで溶液状態のクルクミンをつくりましたが、粘度が上がってしまいダメでした。沢山の試作品をつくりましたが、どれも失敗。そこで「溶かすことを諦め、小さな粒子で分散させる」という大転換をやりました。これが重要な分岐点となり、世界で初めて数百ナノメータという微粒子に、分散性能を良くするための分散剤(植物性)を組み合わせたセラクルミンの製造に成功しました。ヒトの吸収試験で、クルクミン粉末に比べ27倍という血中濃度を達成した時は、嬉しくて手が震えてしまいました。

――普通のウコンやクルクミンのままでは、吸収性の低さから効果が不足し、機能性表示食品となりえないのですね。

橋本 そうです。臨床試験で肝機能3指標が同時に低下したのはセラクルミンだけですから(笑)。通常の機能性素材の開発だったら、ここで終わってしまいますが、当社は、この高吸収型クルクミン製剤が、人々の健康にどこまで貢献できるかを探求するため、日米を軸に世界の医師・研究者と共同で臨床試験を行い、多くの有効な結果を出してきました。

最新の研究により、長期間体内でくすぶり続ける「慢性炎症」がメタボリックシンドローム、がん、自己免疫性疾患といった様々な疾患に共通する基盤病態となっていることがわかってきました。慢性炎症は自覚症状がないまま進行し、疾患の重症化をもたらすことから「サイレントキラー」と恐れられ、60歳以上の死因の7割以上が慢性炎症に起因する病気といわれています。この慢性炎症は、炎症を誘発する体内因子であるN(エヌ)F(エフ)-к(カッパー)B(ビー)の持続的な活性化によって引き起こされることがわかっており、NF-кBの作用を直接抑制する化合物の一つがクルクミンなのです。NF-кB抑制剤としてはステロイドが有名ですが、副作用が非常に強い。一方、クルクミンは副作用が認められないことが特徴になっています。

見える規制と見えない規制の壁

――どんな臨床試験を実施中ですか。

橋本 完了した実証試験が20、現在進行中のものが17あります。運動・疲労回復、糖尿病、動脈硬化、心不全、膵臓がん、肺がん、認知症・アルツハイマー、変形性膝関節症など、慢性炎症基盤の疾患をターゲットにした臨床試験を重ねてきました。その成果をもとに現在、消費者庁に対して、「血管」「筋肉」を対象とする機能性表示の追加を求めています。

――チェックが厳しい消費者庁が「肝臓の健康にセラクルミン」という宣伝文句をよく認めたという声もあります。

橋本 機能性表示制度のお手本は、米国のDSHEA(ダイエタリーサプリメント教育法)であり、健康食品が普及する米国ではクルクミンがサプリとして広く流通しています。実際、当社が5年前から原料供給を始めたセラクルミンは、米国での末端販売価格で年間150億円を超えるヒット商品になっています。なぜ、日本では普及しないのか。規制の壁が厚いからです。機能性表示制度は「ヒトによる治験を経て、健康増進に対するエビデンスが認められた素材を含有する健康食品について、その効能・効果に関する表示を認めるべき」という、政府の規制改革会議の論議を踏まえ、国の経済成長戦略の一環として実現したものです。ところが、目下、機能性表示食品の素材の70%以上が「トクホの範疇」に限定されています。消費者がより広い範囲から最適な選択ができるという理念が必要です。学術論文など一定の科学的根拠を届け出れば国の審査を受けずに、食品に含まれる成分を包装などに表示でき、広告や店頭宣伝もできるはずが、かなり細かいチェックが入り、受理されるまで時間がかかる。新制度は「見える規制」と「見えない規制」の双方に縛られています。本来の届け出制度の基本に戻り、スムーズな運用をお願いしたい。

   

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