復興支援音楽祭歌の絆プロジェクト 「5年目の春」希望のメッセージ

盛岡で開かれた3回目の復興支援音楽祭。被災地の高校生と葉加瀬太郎、西村由紀江、柏木広樹の3人の音楽家が力強く希望を歌い上げた。

2016年5月号 INFORMATION
取材・構成/編集委員 上野真理子

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葉加瀬太郎、西村由紀江、柏木広樹のトリオと4高校の生徒たちが共演したフィナーレ

3月30日の午後、岩手県盛岡市の中津川沿いに佇む岩手県民会館の大ホール前には、雨模様にもかかわらず多くの人々が集まっていた。

この日、三菱商事と朝日新聞社、岩手朝日テレビが主催し、ここで「復興支援音楽祭 歌の絆プロジェクト」が開催されたのだ。

歌の絆プロジェクトは、「合唱を通して仲間との絆を培い、深める機会を提供し、生徒たちの新たな未来への旅立ちを支える」ことを目的に、東日本大震災の3年後にスタートした。2年前の仙台、昨年の郡山に続き、開催は今年で3回目。市内から望む岩手山がまだ雪をかぶり、グレーの空に霞む中、1800名の招待客の人々で大ホールの客席は一杯になった。

オープニングでは、三菱商事の小林建司広報部長が次のように語った。

「大震災から5年、東北の支援に少しでもお役に立ちたいと思い、次に続いてくれることを願って取り組みを続けてまいりました。今日の音楽祭もその一つです。一緒に音楽を楽しんで、思いを一つにしていただければ、私たちにとってこれ以上の願いはありません」

4校の生徒たちが熱演

盛岡第四高校のステージ

今回の音楽祭のステージに立った生徒たちは、岩手県沿岸部の3高校音楽部の合同合唱団と、内陸部の盛岡第四高校の音楽部。いずれも1、2年生の部員たちだ。

沿岸3校の合同合唱団は、大船渡高校の5名、釜石高校の10名、宮古高校の9名、計24名の女子高生。だが、3校一緒に練習できたのは3日間だけ。歌に合わせて手話の振りをつけた曲は、釜石高校の生徒たちが歌う様子を映像に撮り、それを他の2校に送って、合わせるよう工夫したという。毎日の放課後のほか、土日にも練習を重ねてきた。

「被災地の人間として、支援して下さっている方に感謝の気持ちを届けられたら」という言葉とともに舞台に上がった3校の生徒たち。2曲目を歌い終えたところで、声を合わせて客席に語りかけた。

「涙があふれて止まらなかったあの日、たくさんの人たちに支えられた」「朝日を受けて輝く瑠璃色の地球で感謝の気持ちを胸に歌い続けたい」

その言葉に続いて歌い始めたのは、3曲目の「瑠璃色の地球」だった。

「夜明けの来ない夜は無いさ あなたがポツリ言う 燈台の建つ岬で暗い海を見ていた」「争って傷つけあったり 人は弱いものね だけど愛する力もきっとあるはず」

元は松田聖子の歌で知られるこの楽曲だが、3校の透き通ったコーラスに乗せると歌詞の一語一語が胸に染み通っていく。色とりどりのスカーフを手にした生徒たちのやわらかな歌声に、客席は寄り添うようなやさしい空気に包まれた。

続く盛岡第四高校の舞台は27名のうち5名が男子生徒。直前に出場した全国規模のコンテストでは銅賞に輝いた実力を持つ。この日歌った中でも、4曲目の「グリーングリーン」では伴奏なしのアカペラで、素晴らしいハーモニーを披露。言葉の意味を生かして緩急自在な合唱が見事だ。明るいメロディの中に生きる喜び、悲しみが込められ、最後には力強さを感じさせるこの曲は、父の死に直面した息子の視点から書かれた米国の反戦歌。曲目は顧問の先生と生徒が話し合って決めたという。死を受け入れて強く生きようとする歌のストーリーが「被災地の人々が復興へと立ち上がる姿に重なる」と音楽部長の田村綺菜さんは話す。

高校生のステージの後、ヴァイオリニストの葉加瀬太郎、ピアニストの西村由紀江、チェリストの柏木広樹のトリオが舞台に登場。葉加瀬さんと西村さんはそれぞれ大震災後、チャリティー活動に尽力した経験もある。伸びやかな音色で「情熱大陸」など全6曲を演奏。シンプルな編成ながら終盤には手拍子がわき起こる熱演を見せ、フィナーレには4高校の生徒たちとの共演で「WITH ONE WISH~ひとつの願い抱いて」を演奏、希望のメッセージを歌い上げた。

音楽が大切な思い出をくれた

岩手県民会館

今回ステージに立った高校生の中には、津波で肉親を失ったり、家を流されたりした生徒もいる。釜石高校の萬海果さんは「沈んだ土地が埋め立てられ、建物も建ってきていますが、私はまだ仮設住宅。住みたい地域の公営住宅の見通しが立っていなくて、住めないまま卒業して離れてしまうかもしれない」と語る。そんな中で迎えた震災から丸5年の春。「大きなステージで緊張したんですけど、たくさんの方々に聴いていただいているんだなと思うとそれだけで感動しました。葉加瀬さんたちの演奏にもとても感動して、今日一日で大切な思い出ができました」と輝くような笑顔を見せた。

音楽を楽しむひとときは、そのまま被災地の人々への力強いメッセージでもあった。歌が元気や勇気をくれる――そんな当たり前の言葉を、復興支援音楽祭のこの日、一人一人が実感したのではないだろうか。

   

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