急げ野党協力 孔子も野合の子だ

2016年5月号 連載 [永田町 HOT Issue]
by 海江田 万里(元経産相・元民主党代表)

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3月27日、都内で開かれた民進党の結党大会に参加した。派手なことを嫌う岡田代表の考えもあったのだろう。落ち着いたなかにも、集まった人々の内に秘めた決意が感じられる大会だった。

大会後、与党幹部から「選挙目当ての野合だ」とのステレオタイプの批判が浴びせられたが、私はあえて言いたい、「野合でどこが悪い」と。

私の愛読書『史記』の「孔子世家」に次のような記述がある。

「紇與顔氏女野合而生孔子」

つまり、孔子は紇(こつ)が顔氏の娘と野合して生まれた子なのだ。野合でも孔子のような立派な人物が生まれるのである。問題は誕生した民進党がこれからどんな行動をとるかだ。民進党の当面の目標は明らかだ。自民党の暴走を許さず、政権交代可能なもう一つの選択肢を国民に示すことだ。

自民党の暴走は憲法違反の安保法制で一気に進んだ。集団的自衛権の行使は、日本がこれまで培ってきた平和ブランドを弊履のごとく打ち捨て、アジアに軍拡競争を招くことになる。民進党の主張は、わが国の安全保障政策を憲法の枠内、つまり「専守防衛」の原則に引き戻すことである。

民進党は、民主党の時代に定めた安全保障の基本理念である「近くは現実的に」「遠くは抑制的に」「人道支援は積極的に」の考え方を、そのまま引き継いでいる。また、この考えに基づいた法案をすでに国会に提出している。しかし、自民党は、民進党提出の法案をたなざらしにして、一向に審議に入らない。安倍総理は昨年9月、安保法が成立したときに約束した、「国民への丁寧な説明」も果たそうとしない。

経済面でも、安倍総理はすでに破たんしているアベノミクスを「この道しかない」と強弁し続け、日本経済を取り返しのつかない破滅の淵に導いている。

争点は格差社会是正だ

先日、発表された日銀の『短観』はアベノミクスの破たんを如実に語っている。今更言うまでもないが、アベノミクスは大企業の収益を拡大させることから「好循環」がスタートする。その企業収益が、昨年末にすでにピークアウトして、これから先、さらに悪化するだろうと企業の経営者自身は予測している。今年の春闘の賃上げが昨年と比べて低調に終わったのは、経営者の判断が悪化している以上、当然のことだろう。

輸出関連の製造業の大企業がこれまで高収益を上げた背景には円安の存在があった。今やその流れを作った世界経済の環境が変化しているのだから、円安を狙った日銀のマイナス金利も、一向にその効果は上がらない。高齢化社会のわが国ではマイナス金利は高齢者のフトコロを直撃して、ますます人々は財布の紐を固くしてしまう。

また、景気の停滞を目の当たりにして、大規模な財政出動を主張する与党幹部の声が日を追うごとに大きくなっている。

「マイナス金利での国債発行はコストが安く済む。それに国債は日銀が引き受けてくれるから心配しなくていい。どんどん国債を発行しろ」との暴言が聞こえてくる。与党や政権の中枢から「財政規律」の声がまったく発せられなくなったことは特異なことである。

こうして調達した資金で景気対策に何をするかと言えば、「お年寄りに一時金を配るから今度は若者だ」とばかりに若年の低所得者に商品券をばらまく案が浮上している。

今年の7月には参議院選挙がある。情勢次第では衆議院とのダブル選挙ないしは年内の衆議院選挙の可能性は高い。夏に高齢者に一時金をばらまいて秋には若者に商品券を配布する。これは選挙目当ての有権者買収以外の何物でもない。有権者をばかにした話だ。

鳴り物入りのアベノミクスも3年3カ月経ったところで、日本に何を残したかを考えると、日本社会に格差を拡大させたことでしかなかった。

もちろん、日本は自由主義の国だから、ある程度の格差は止むを得ない。格差があることによって人々は、より豊かな生活を求めて努力するし、その積み重ねによって経済も成長する。しかし、その格差が一定の範囲を超えて拡大すると、経済の成長にとっては足かせになるし、社会を分裂させることになる。

現在、先進国で経済学者や政府が格差の縮小に向けて様々な努力を行っているのは、そうした社会の亀裂と経済の停滞を脱するためである。

残念ながら、安倍総理には、そうした問題意識がまるでない。

新しく誕生した民進党は、第2次安倍政権が拡大させ、固定化させた格差を是正する政策を掲げるべきだし、そうした考えをすでに明らかにしている。

予備選で勝てる候補を

現在、参議院選挙に向けて一人区での候補者調整が進んでいる。今回から一人区が増えて32選挙区になり、そのうち、すでに協力体制が出来上がっているのが15選挙区で、現在、協議中の選挙区が10以上ある。

まず、これら25の選挙区での調整を万全のものとして、最後まで全ての選挙区で候補者を一本化するための努力を続けて欲しい。

また衆議院選挙においても300ある小選挙区は形を変えた一人区と考えられるので、候補者調整が行われて当然である。しかし、ことは参議院選挙ほど簡単ではない。

「衆議院選挙は政権選択の選挙だから基本政策の一致が必要だ」との指摘は野党共闘を何としても潰したい政権側の理屈だ。

衆参議院の選挙で現在の与党の議席を一つでも多く減少させて、少なくとも安倍政権を退陣に追い込むための政略が必要だ。一番難しい候補者調整は、各党がやるより、むしろ地域で予備選挙のようなものをやって地域で自公の候補に勝てる候補者を選ぶのも一考だ。

私が代表のときの選挙は、残念ながら時間が不足して選挙協力が不十分なまま、総選挙に突入してしまったが、今回はまだ時間がある。とはいえ、早ければ7月のダブル選挙も囁かれているから、悠長なことは言っていられない。岡田代表には選挙での野党協力をさらに推し進めてもらいたい。

それが現在、野にいる私が地域で聞いた有権者の生の声である。

著者プロフィール
海江田 万里

海江田 万里(かいえだ・ばんり)

元経産相・元民主党代表

1949年東京生まれ。元経産相、元民主党代表。衆院当選6回。前回総選挙で落選し捲土重来を期す。民進党東京1区公認候補者。

   

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