抜け駆けやら行政指導やら 混乱続く携帯実質0円規制

2016年5月号 BUSINESS [ビジネス・インサイド]

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新年度を迎えて携帯電話を買い換えるユーザーが増える中、携帯販売の現場で混乱が続いている。総務省が4月からスマートフォンを過剰に値引く「実質0円」販売を規制するガイドラインの本格運用を始めたことが背景にある。端末価格の適正水準を巡って携帯事業者と総務省の間に認識のギャップもあり、携帯販売を巡る迷走は当分続きそうだ。

最初の混乱はNTTドコモによる抜け駆けがきっかけだ。米アップルが3月31日に発売した新型iPhoneSEを巡り、携帯3社はガラケーから機種変更をするユーザーに大幅な値引きを打ち出した。容量16ギガバイトだとKDDI(au)が720円、ソフトバンクは432円と「実質0円」を避けたのに、ドコモは強行。「実質0円規制に抵触している」と業界内は大騒ぎとなった。結局、ドコモはわずか3日で撤回に追い込まれ、648円に値上げした。

さらに業界に激震が走ったのが4月5日。総務省がドコモとソフトバンクに過剰な端末値引きを是正する行政指導を行ったのだ。ドコモは他社からの乗り換えで、家族で複数台のスマホを購入する場合に600円台で販売。ソフトバンクは乗り換えの場合、実質0円以下で購入できるような過剰な端末購入補助を行っていた。「急激に値上げをすると端末販売に影響する。時間をかけて実質0円を是正していくことを総務省も容認していると思っていたので、こんなに早く指導が入るとは」(携帯大手幹部)と驚きの声も聞かれる。

そもそも総務省が実質0円規制に踏み切ったのは、昨秋、安倍晋三首相が家計の負担軽減策として、携帯電話料金の見直しを総務省に指示したことがきっかけだ。

実質0円販売を止めることは、端末購入に対する過剰な補助を圧縮することを意味する。そこで浮いた原資で通信料金を引き下げるよう携帯3社に求めたのだ。高市早苗総務相は「長期利用者がメリットを実感できるように」と通信料金引き下げを繰り返し求めてきた。

だが、携帯3社は、収益悪化を招きかねない通信料金引き下げには及び腰だ。業界では実質0円規制について、「このままでは端末価格だけが上昇し端末販売は鈍化する。ユーザー、事業者双方にメリットがない政策だ」との嘆き節も聞かれ始めた。実質0円規制は愚策になりかねない危険性をはらんでいる。

   

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