外食産業はお手上げ!「ブラックバイト・ハンター」の猛威

「ブラックバイトユニオン」は、大学生の「労組ゴッコ」ではない。背後に「証拠集めのプロ」がいる。

2016年4月号 LIFE

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ブラックバイトユニオンのHP

昨年11月、アルバイトで働く学生の6割が賃金や勤務シフトなど労働条件を巡るトラブルを経験したことが、厚労省の調査で明らかになり、学業に支障をきたすほど過酷な労働を強いる「ブラックバイト」が社会問題化している。

時間外労働やノルマ達成の商品買い取りを強要するケースが続出し、新聞、テレビで大きく報じられた。そのネタ元と目されるのが、2014年8月に首都圏の大学生約20名で結成した労働組合「ブラックバイトユニオン」(以下、BU)だ。学生からの相談を受け付け、トラブル解決の手助けをするこの団体を、暇をもてあます学生の「労組ゴッコ」と見くびるなかれ。昨今では学生アルバイトに依存する大手外食チェーンや大手コンビニの経営者を震え上がらせる労組になっているのだ。

彼らの「武器」は、違法・無法な労働を強いるアルバイト先の情報を集め、困窮する仲間を助ける学生ボランティア「ブラックバイト・ハンター」の存在だ。彼らは昨年8月、「ブラックバイト・ハンティング!」なるキャンペーンを始め、学生ネットワークを活用したブラックバイト「摘発」を呼びかけているのだ。「これがフランチャイズ(FC)ビジネスの根幹を揺るがす脅威になっている」と、大手外食チェーンの幹部は言う。

「FC本部はあくまで運営会社を指導する立場なので、各店舗でどのように労務管理しているのか、細かいところまで把握できない。BUは、バイト先に『ハンター』を潜り込ませ、粗探しをする。極端なハナシ、わざとよくない態度を繰り返し、『罵倒された、パワハラだ』と訴えても、本部は確認しようがなく、全くお手上げです」と、ハンティング攻撃に遭った大手FCの役員は匙を投げる。

「店長の暴言」を録音公開

「ハンター募集」からおよそ1カ月後、BUはしゃぶしゃぶの食べ放題で全国333店舗(16年1月現在)を展開する「しゃぶしゃぶ温野菜」に攻め込んだ。バイト学生から相談を受けたとして、1日12時間、4カ月間無休で働かせていたにもかかわらず、本来支払うべき賃金を半分以下しか払わず、しかも計10万円以上の「自腹購入」まで強いたと公表。同時に、問題の店舗を運営するDWE JAPAN株式会社と、FC本部を運営するレインズインターナショナル株式会社に団体交渉を申し入れた。ところが、メディアが飛びついたのは、賃金未払いや過酷な労働環境より、バイト学生をこき下ろす「店長の暴言」の録音だった。

「殺されてえんだろお前! お願いだから自殺でもして死んでくれよ!」

その音声のインパクトは強烈で、大手マスコミに大々的に報じられ、BUが音源をユーチューブにアップしたためネットでも炎上した。昨年12月には、「NEWS ZERO」(日本テレビ)や「news every」(TBS)でも、特集が組まれたほどだ。

「レインズ社は、暴言が録音されたのは1回だけで『極度の興奮状態』だったという第三者機関の報告書を出して火消しに躍起になったが、 BUから『これまでに何度もあることがわかっている』と、他の証拠の存在をほのめかされ、今もびくびくしている」と、大手新聞の記者は言う。かかるスタイルで、企業側を追い詰めていくのが、彼らの「十八番」だ。

14年8月、「たかの友梨」の髙野友梨社長と思しき女性経営者が、残業代未払いを労基署に通報した女性従業員に対して高圧的な発言を繰り返す音声がネット上に公表され、物議を醸した。この録音は、BUと同じマンションに事務所を構える「エステ・ユニオン」の組合員女性が録音したものであり、すでに会社側と「和解」が成立したと聞く。如何なる条件で示談が成立したのか明らかではないが、「動かぬ証拠」が有利に働いたのは間違いない。

「潜入」を防ぐ手立てなし

学生らしからぬ「巧みな戦法」と訝る向きもあるが、彼らの背後には、その道のプロが控えている。BUは単なる「学生有志」の集まりではない。反安保デモで注目を集めた「SEALDs」と同じく、その筋で有名な「大人」のサポートを受けている。

当初BUとエステ・ユニオンは、「総合サポートユニオン」という労組の支部として生まれた。こうしたユニオンを物心両面で支えるのは、和光大学教授でジャーナリストの竹信三恵子氏、関西大学名誉教授の森岡孝二氏、仙台の新里宏二弁護士らという、いずれもその筋で名前を知られた人物が並ぶ。ちなみに新里弁護士といえば、「SEALDs」の奥田愛基氏の実父で、ホームレス支援全国ネットワーク代表の奥田知志氏と連携し、困窮者支援に力を注ぐ筋金入りの「人権派」だ。

また、BUと同じ住所に居を構えるNPO法人POSSE(ポッセ)も、彼らの「ハンティング」をバックアップしている。その代表を務める今野晴貴氏は、中大法学部在学中から1500件を超える若者の労働相談に関わり、12年に『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』を刊行し、大佛次郎論壇賞を受賞した気鋭の社会運動家である。

06年に都内の大学生・若手社会人を中心に結成され、現在300名を超える会員を集めるPOSSEは、同名の機関紙のほか、「しごとダイアリー」という冊子を発行している。これは「始業時間」「終業時間」「仕事内容」「上司の発言」などが細かく記録でき、後の団体交渉や訴訟となった場合の「証拠」となるもので、多くの労働争議で活用されてきた。その成功例と評されるのが、マクドナルド争議だ。06年5月に連合の全面支援のもと、世界で3例目となる労働組合「日本マクドナルドユニオン」が旗揚げされた。その後、同社の「名ばかり管理職」が社会問題化した。何を隠そう、同労組の加入特典として配布されたのが「しごとダイアリー」だった。そんな「証拠集めのプロ」が、BUの背後に控えていることを知るべきだ。

「学生バイトを使わなければ現場が回らないから、『ハンター』が怖くても、その潜入を防ぐ手立てはない」と、前出の大手FC役員はこぼす。

BUは「温野菜」に続き、同じくレインズ社がフランチャイズ展開する焼肉チェーン「牛角」の店舗前でも抗議を行っており、今は同社が標的になっているようだ。BUは学生の相談を受ければ、どこへでも矛先を向ける。全てのFC店舗、とりわけ外食産業が「獲物」になり得る。ハンターの次の標的はどこか。

   

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