自民党議員が「産業界代表を入れろ」と強談判。日弁連・消費者団体べったり路線は風前の灯。
2015年9月号 BUSINESS
消費者問題のお目付け役である消費者委員会のあり方が問われている。独立した第三者機関とはいえ、消費者団体などの主張に偏った強権を次々と発動し、「(消費者庁が入居する)山王パークのモンスター」との批判が出ているからだ。8月末に任期が切れる委員の後任人事は、安倍晋三政権の重要課題に浮上してきた。
消費者委員会は2009年9月、消費者庁発足に併せて内閣府に設置された。自民党の麻生太郎首相が退陣し、民主党の鳩山由紀夫首相が就任する政権交代の動乱期のことである。
鳩山政権で消費者担当相に抜擢されたのが連立相手の社民党党首の福島みずほ氏だった。弁護士でもある福島氏が事実上仕切り、第1次消費者委員会がスタートした。委員会は、消費者問題を調査・審議し、首相や関係省庁に建議など意見表明するなどの役割を担っている。
ただ、アンチビジネスの色彩が濃かった民主党政権の下、第1次委員会は、日本弁護士連合会(日弁連)の弁護士や消費者団体代表、消費者系の学者が委員に重用された。福島氏らが敷いた日弁連・消費者団体べったりの路線が現在も継承されている点に問題の根深さがある。
現在の委員会は、第1次(09年9月~11年8月)、第2次(11年9月~13年8月)に続く第3次委員会(13年9月~15年8月)で、2年の任期が今月末に切れる。
メンバーは10人で、委員長は消費者法を専門とする河上正二・東大大学院教授が務める。河上氏を支える側近の委員長代理は、日弁連で消費者問題対策委員会委員長として活躍し、消費者の権利を主張する強硬派の石戸谷豊弁護士である。
消費者団体系からは、夏目智子・全国地域婦人団体連絡協議会事務局長、橋本智子・北海道消費者協会会長、唯根妙子・日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会理事、生活経済ジャーナリストの高橋伸子氏が加わっている。
学者は、阿久澤良造・日本獣医生命科学大学応用生命科学部長、齋藤憲道同志社大学教授、山本隆司東大教授で、食品科学や消費者法などの専門家ばかり。岩田喜美枝・元資生堂副社長も委員を務めるが、厚生労働省局長からの天下り役人だけに、純粋な産業界出身と言えない。
要するに、全員が消費者保護を最重視し、産業界の事情をほとんど考慮しない構成だ。各委員の出身母体や主張のバランスを工夫する多くの政府の審議会と比べると、極めて異例の偏向的な顔ぶれである。
第3次委員会が発足した13年当時、すでに安倍政権だったが、日本経済再生への政策転換を最優先していた事情があり、「消費者庁事務方が作成した旧来型人事案を差し替えるという混乱をひとまず避けた」(政府筋)のが真相らしい。
しかし、長期政権を視野に置く安倍官邸は人選の失敗に懲り、民主党と福島氏が敷いた「産業界いじめ」の委員会を改革したいとの思いを強めている。
最大の理由は、消費者委員会が様々なテーマで波紋を投げかけてきたからだ。まず世間の耳目を集めたのが花王の食用油「エコナ」騒動である。
エコナは脂肪が付きにくいとして特定保健用食品(トクホ)の許可を得て人気商品になっていた。しかし、エコナの植物油脂に含まれる物質が発がん性の疑いが濃い物質に近いとして、消費者委員会が消費者団体などの要求に沿ってトクホ許可の取り消しを求めた。花王は安全性を主張して反論したものの、最終的に抵抗を断念し、トクホの失効届けに追い込まれた。
内閣府の食品安全委員会が今年、5年に及ぶ「エコナの健康への影響評価書」をまとめ、厚生労働省も「重大な健康被害があるとは考えていない」とのコメントを発表した。これを受け、花王は今年3月、澤田道隆社長名で「エコナの安全性は再確認できたのではないかと考えております」という声明を出したが、モンスター委員会の軍門に下った悔しさがにじみ出ていた。
こんにゃくゼリーによる窒息事件でも、消費者委員会が規制強化の法整備を提言して安全指標が定められたが、食品安全委員会は「リスクは餅より低い」と別の評価をしていた。これもまた、消費者団体の強い声に背中を押された消費者委員会の強権により、なぜか規制がすんなり強化された実例だ。
第3次委員会では昨年夏、不当表示した企業に対する課徴金制度を景品表示法に設け、徴収した課徴金を消費者団体に寄付する案を打ち出して物議をかもした。経団連などが突然の強硬策に反発し、消費者委員会は渋々撤回したが、産業界との調整を軽視して突っ走る体質を改めて浮き彫りにした。
そして今夏、第3次委員会の8月末の任期切れ直前に白熱しているのが、訪問販売などのルールを規定している特定商取引法の見直し論議である。
7月2日に開かれた自民党内閣部会・消費者問題調査会では、消費者問題専門の弁護士から任期付で転身した黒木理恵消費者委員会事務局長が、「消費者委員会の任期の8月末までに何らかのとりまとめをする」と説明したところ、自民党議員から「任期が終わるから結論を早めに出す考え方は一切取らないで欲しい」とクギを刺された。だが、産業界が反発する規制強化に意欲的な河上委員長や石戸谷委員長代理らの本心は明らかだ。任期切れ寸前にモンスターが牙を剝くことに要警戒だろう。
内閣部会で自民党議員が「消費者委員会の全員が消費者団体の代表だ。産業界代表を入れろと何度も申し上げてきた。適切な割合で産業界を入れるべきだ」と批判した意味は重い。
政府内では水面下で第4次委員会の人選が進んでいる。日弁連と消費者団体は、役得の大きい委員ポストを既得権として死守したいようだ。しかし、山口俊一消費者担当相と消費者庁の板東久美子長官らは、自民党の声や産業界の悲鳴を踏まえて人事案を練り、近く、官邸や内閣府と最終協議する。
第4次メンバーも消費者系で占められれば、新たな任期の2年間も消費者委員会が強権を発動し続け、産業界との軋轢が高まるのは必至だ。民間企業を萎縮させると経済再生にマイナスとなる。今度こそ、モンスターを封じ込めるバランス重視の新体制が望まれている。